【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

191 成人とじゃんけん  緋色

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「殿下」

 声のした方へと顔を向ければ、銚子を手にした四条の当主がこちらを向いている。声をかけられてようやく、隣の席だというのに、はじめに会釈をしたのみだったことに気付いた。とりあえず猪口を差し出して注がれた酒を口にすると、喉がかっと熱くなる。ほとんど飲まなくなった体は、ほんの少しの酒を貪欲に吸収しているのかもしれない。
 
「本日は、あまり御酒は召し上がっておられませんな」

 四条の猪口に酒を注げば、のんびりと口をつけてそんなことを言う。

「ああ。最近はほとんど飲まない」
「そうですか」

 飲める年齢になってからはそれなりに嗜んでいたから、宴席でも飲まない姿は疑問を生んだのだろうか。それでも、四条はそれ以上聞いてくることもなく、子どもたちの遊んでいる様子に目を向けた。

「孫は、成人なるひとさまに随分と懐いたようです」
「そうか」

 灯可とうかが、福笑いを独占して何度もやりたがるので、ちび二人が不満の声を上げたところに、成人なるひとがじゃんけんをしたいと言って騒動は一度収まったらしい。
 大きな声でじゃんけんが始まっている。手を出す度に、これがグーだから、パーの私が勝ち、などとちび達が成人なるひとに説明している。
 何度かやって、うんうんと成人なるひとが頷いた。

「分かった」

 掠れた高めの声が告げる。
 そしてまた、何度か三人でじゃんけんをした後で、ちび達の不満の声が響きはじめた。

「なんでー」
「なんで成人なるひとさまが全部勝つのー」
「負けないように出してるから」

 成人なるひとが言うと、福笑いをしていたはずの灯可とうかが、成人なるひとに詰め寄る。

「ど、どういうことですか?」
「え?相手に負けないように出したら負けないけど……」
「何を出すか分からないじゃないですか」
「手の動きとかで、何出すか分かるけど」
「手の動き……」

 灯可とうかが自分の手を、グー、チョキ、パーと動かしてみて、首を傾げた。

「もうっ、灯可とうかくん。福笑いはもういいの?」

 福笑いに付き合わされていた四条の孫娘が、途中で放り出した灯可とうかに文句を垂れている。やりかけ途中の福笑いは、目が二つ、真ん中辺りに置かれていた。輪郭の中には入っている。もう少し上だったな。

「もういい。今度は成人なるひとさまとじゃんけんしたい」
「ええ?もうー。今日の灯可とうかくん、ちゃんとしてないー。なんで私がお片付けするのよー」

 四条の孫娘が不満の声を上げて、

「兄上は、福笑いするって言ったから、あっちいってー」
「うるさいな、見可みか。福笑いやっていいよ。交代」
「ずるいー。そんなのずるいー。成人なるひとさまは、俺と鶴来つるぎと遊ぶんですー。ねー?」
「うん」

 男連中で口げんかが始まりかけている。見可みかと四条の孫が成人なるひとにしがみついた。
 あいつら、お仕置きだな。
 
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