【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

182 新年の宴1  朱実

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 だから、緋色ひいろを野放しにするのは危険なんだ。
 流石に崩れそうになる表情を必死に整える。
 一条から九条の直系親族と、皇家が集う新年の宴。一日から三日まで休んだ後、準備期間を経て一月五日に毎年開催される。格の低い九条から順に座卓の前に座っていくため、すでに人の集まった会場にゆっくりと登場してみれば、緋色ひいろが打ったのであろう一手に、心底驚かされることとなった。
 ざわざわとしていた声は、私や赤璃あかり、父と母の入場で止んだが、落ち着かない雰囲気は繕えない。一足先に入場した緋色ひいろが、初めて成人なるひとを連れてきたためかと思ったが、そうでは無かった。
 人々の視線の先は、大きな座卓の下座に座る九条家。直系だけの宴に、五人の成人男性が座している。引退した者は参加しないことが多いのだが、引率のためか、前当主利胤としたねも来ていた。
 その横に座る生松いくまつが、現当主ということになっていたはず。とはいえ、戸籍上の長男は、その向かい側に座る睦峯むつみねだったな。頭の中で、九条家の情報を精査する。毎月の定例会議はほとんど生松いくまつが参加していたから、先に養子となった生松いくまつが当主ということで話はついたのだろうか。長男の権利を主張したりはしないものなのか?
 そして、何故ここにいるのか分からぬ二人。帝国の文官、さい文明ぶんめいと、戸籍上は九鬼くき家の三男であった男。私にはそのことは分かっているが、他の参加者たちは、顔も名前も知らないだろう。
 それらが直系として堂々とここにいる?私さえ把握していない情報が、そこにあるということだ。そのことに、胸のうちが冷える。すべて、緋色ひいろの家の者たちだ。緋色ひいろの采配に違いない。つまり、緋色ひいろが私の先手を取ったということで……。

「殿下。朱実あけみ殿下」

 隣からそっと声がかかる。乾杯のための杯に酒を注ごうと、赤璃あかりが銚子を持ち上げていた。

「ああ」

 殊更ゆったりと、猪口を持ち上げる。ほんの少しの酒を注ぎながら、

「お顔が恐いですよ?」
 
 と、赤璃あかりが囁いた。ふ、と笑って、赤璃あかりの硝子のコップに麦茶を注ぐ。妊娠中のため酒を控えている妻は、残念そうにグラスを持ち上げた。

「一緒」

 生意気にも赤璃あかりの隣に座った成人なるひとが、麦茶の入ったグラスを揺らす。

「一緒ね。オレンジジュースもあるわよ」

 出席者の中の、子どもらの持つグラスをぐるりと眺めて、表情を緩めた赤璃あかりが答えた。昨年は、皇太子妃の席に着くことに緊張していたようだが、今年は楽しそうに、成人なるひとに笑顔を向けている。
 成人なるひとが隣に座ることで、肩の力を抜けるなど腹立たしいことだ……。
 心は千々に乱れながら、父上の新年の挨拶を聞いた。
 
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