【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

174 妙案  緋色

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 あああ。面倒くさいことになった。
 とはいえ、俺のミスとも言えるこの事態を、収拾しないわけにもいかない。

「何でも、真面目にやろうとせんでええ。睦峯むつみねを見習え。あれは、九条になっても何にも困っとらんだろう」
「いえ、その、私が引き受けたことですから」

 睦峯むつみねを九条として、無事に医師免許を取得することができた後、一度だけ御前会議で姿を見たが、それきりだった。
 途中までは神妙な顔で座っていたが、ただ座っているだけでも構わないようだと気付いた後は、間違いなく別のことを考えている顔をしていた。睦峯むつみねは、存外要領がいい。その一回の会議以外は全て、生松いくまつに押し付けているのだから。年齢で言えば、あちらが長男になるというのに。
 忍部しのぶべ博士の助手の仕事も、いつの間にか誰かに引き継いでいて、今はちゃっかり俺から給料をもらって生活してやがるしな。
 そんなことを考えていると、睦峯むつみねさいと仲良く食堂に現れた。

「え?どういう状況ですか?」

 利胤としたねに抱き締められたままの生松いくまつに驚いている。

「九条の仕事を一人で引き受けるのが辛いと言うておる。お前ももう少し分担せい」
「あー、いや、はい。でも、俺、みかどの前とか本当に無理で」

 こいつも、名字無しの出身だからな。
 そんなにも、気にするような作法なんてないと思うんだが。

「あ、殿下。今、なんで無理なんだ?とか思ってらっしゃるでしょう?」
「ああ」

 よく分かってるじゃないか。

「尊きおん方がたの作法と、俺らの作法が同じな訳ないでしょう?殿下の普通は、俺の普通じゃない」
「心臓に毛の生えたようなお前でも、ちゃんと考えてるんだな」
「命かかってますんで。不敬罪って極刑ありでしょ」
「いや。今は、そこまでは……」

 とはいえ、無礼を見逃せないことはある。

の範囲がどこまでなのか読めないんですよ。付け焼き刃じゃ、いつぼろが出るかと、はらはらしてなきゃなんねえ。その上、よく分からないまつりごとの話ですし、御前会議と集会だけは勘弁してほしいです」

 名字を渡したら、医師免許取得の試験が受けられる、と安易に考えていた俺の失策だな。九条なら、俺の側に置きやすいという理由もあった。高位の家門の義務までは考えていなかった。

「だが、御前会議を欠席し続けていたら九条が取り潰される」
「わしは、引退宣言をしてしもうたからな。ふむ、だから三郎さぶろうか」
「引退してからの三人目なあ……」

 三郎さぶろうの所作は、高位の人間のそれだ。安い衣服を纏って掃除用の雑巾を持っていても、隠しきれないそれらは漂う。いずれ、国を治めるための勉強もしてきたことだろう。書類仕事は早く、正確だ。属国の罪人の子だが、縁切りをさせて隠したから、辿れる糸は残していない。
 後は、九条に入れるだけ……。それが難しい。
 高位身分の所作、か。
 寄り添う睦峯むつみねさいを見て、ふと思う。

さい睦峯むつみねの伴侶として九条に入れ、さいが御前会議に出席すればいいんじゃないか?」
「な、なななななな、なにを……」
「私は、帝国の人間ですよ。それは無理でしょう」

 慌てる睦峯むつみねに、冷静なさいの声。

「そうだった」

 帝国の人間。すっかり頭に無かったな。

「それに、私も礼儀作法の自信はありません。国の違いもありますし、高位の作法を

 ああ。
 覚えていたらいたで、皇国の運営に関わらせることなどできないだろう。さいは、記憶にない元の身分が物騒すぎる。
 やはり、適任は三郎さぶろうか。

「じいじ。お願い聞ける?」
「ああ、生松いくまつのお願いは叶えるぞ。今、方策を考えておるからな、成人なるひと。きっといい案があるはずじゃ」

 じいじ。
 そうか。子である必要はない。
 睦峯むつみねさいに告げる。
 
三郎さぶろうをお前たちの子にすればいい。利胤としたねから見て孫であっても、年齢的におかしくない。そうすれば、何の問題もない」
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