【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

143 後の祭り  朱実

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朱実あけみ

 父に呼び止められるなんて珍しいこともあるものだ。振り返ると、いつになく厳しい顔の皇帝陛下が目に入った。
 導かれるままに父の執務室へ向かえば、性急に人払いをされる。ソファに腰掛け、言葉を待った。父が、すぐに口を開かないのを訝しく思っていると、少しして、茶を持った侍従がやって来る。
 ああ、そうだった。
 人払いをした後で茶が来る、という行程は無駄ではないか、と思うのだが、長年染み付いた習慣は消えまい。自分の代で失くしていけばいいことだ、と気持ちを飲み込む。どうせ、もうすぐだ。
 侍従が頭を下げて部屋を出ていくまでたっぷりと待ってから、父が口を開いた。

朱実あけみ此度こたびの会議、感心しない」
「父上は、緋色ひいろの提案に反対ですか?」

 感心しない部分はそこではないだろう、と分かっていて敢えて聞く。はあ、と父の溜め息が聞こえた。

「そうではない。お前の進め方が強引だったと言っている」

 では、会議中に言えばいいではないか、と思うのだが、会議で父が意見を述べることは、ない。皇帝が言えば、それが決定になってしまうから、発言は控えましょうと習った通りに。それも、ずっと口をつぐんでいろという意味ではないのに。

「今回の案には全面的に賛成でしたので、私も賛成していると主張したまでですが」
「主張し過ぎていると感じた。その場で決定してしまうなど」
「提案されたものが過半数の賛成を得ているというのに、一月ひとつき待つ必要性がどこにありますか?」
「全員一致でない限り、もう一度考える、というのが通例だ」

 通例。暗黙の了解。
 つまり、どこにもそんな規定はないわけだ。

「過半数の賛成を得て、反対派の意見が、提案との直接の関連性を見出だせない場合、そのまま可決できたものと記憶しております」

 む、と父は一度、口をつぐんだ。ここまでが、父にしては饒舌で滑らか過ぎたのだ。私は、のんびりと茶の蓋を開けて口に運んだ。
 納得できていないとしても、私には関係ない。私に手落ちはないのだから、その気持ちは、あなたが解決しなくてはならないものであって、私に当たるのは筋違いだ。

「……提案との直接の関連性を見いだせない、というのが、ひどく曖昧だろう?」
「ええ、そうですね」
「判断する者の主観に頼るような記述を持ち出すのは、施政者として正しくない」
「ええ、そうですね」

 けれど私は、会議の場で、それを理由とはしていない。
 はああ、とまた、父の溜め息。

「もっと穏やかに……。お前ならできるだろうに……」

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