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第五章 それは日々の話
121 十年後の約束 成人
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「顔、描いてみる?」
たくさん、ぐるぐるしたりぎざぎざしたりして、紙も手も真っ黒になった頃、青葉がにこにこと言った。
すごく楽しい気分だった俺は、うん、と頷いて新しい白い紙に丸を描く。
あまりがたがたせずに、ちゃんと端と端を繋げることができた!嬉しくて、目のありそうなところはここかな、と横長の丸を二つ大きな丸の中に入れた。うん。格好いいぞ。鼻は丸じゃないな、と青葉の顔をじっと見てみる。長い線を描いて先っぽに丸を描こう。口も、丸じゃない。横に一本、線をひっぱってみる。
昨日よりだいぶ良い出来の、顔っぽいものになってきた。
耳。昨日描き忘れていた耳も。耳は丸い。顔の横に二つ、小さな縦長の丸をくっつけた。
髪の毛は真っ直ぐで短い。格好よく描けるかな。
ずっと俺の頭の中にいる大好きな人を思い浮かべながら描くのは、とても楽しい。
「緋色殿下だね」
当たり。すごいな、青葉。どうしてすぐに分かったの?
「よく似てる。上手!」
「ふふ」
そうかな。うん。なかなか上手くいったかも。
「じゃあ、この上の辺りに、誰を描いたか文字で書いて」
「緋色って?」
「そう。それで、下の方になるちゃんの名前を書いて」
「なんで?」
「誰が何を描いたか、分かるようにしておくんだよ」
「ふーん」
俺のってすぐ分かるのに?
首を傾げながらも、紙の上の方に「ひいろ」と書いた。下には「成人」と書く。
「上手にできたねえ。完成だ。こりゃ上手だ」
持ち上げて眺めていたら、青葉がすっごく褒めてくれるから、嬉しいのに恥ずかしいという不思議な気持ちになった。
「もう一個描く」
「いいね。これは大事に置いておこう」
青葉は、俺が名前を書いた下に何か数字をさらさらと書いて、置いておく用の箱に入れた。さっきまで、ぐるぐる描いたりぎざぎざ描いたりしてた真っ黒な紙は、捨てる紙を入れる箱に入っている。
「何書いたの?」
「日付けを書いといたんだよ。なるちゃんがいつ描いたか分かるように」
「何で?」
もっと上手に描けたら、今描いたのは捨てるつもりだったんだけど。
「こういうのはね。日にちが経ってから見ると、楽しいものなんだよ」
「?」
「分からないかな?……そうだ!明日、常陸丸や力丸、乙羽ちゃんと緋色殿下が学校で描いた絵を持ってくるから、一緒に見ようか」
青葉が楽しそうに笑って言った。
みんなの描いた絵?
「見る!見たい!」
「ね?見たいでしょ?」
「うん」
「なるちゃんのも、十年後に見るために置いておこう」
「誰かが見る?」
「なるちゃんと私で一緒に見ようよ。その頃には、きっと今より絵が上手になってて、初めて描いた顔の絵はこんなのだったのかあ、って言うに違いないよ」
「笑うかも」
だって、青葉に教えてもらう前の昨日の絵がもう、下手くそで笑っちゃうくらいなんだから。
「大いに笑って楽しもう」
明日の明日のまた明日。
俺は、そんな先にもここで笑ってるのが当たり前だと思っているのか。
あっという間に楽しく過ぎていく一日を重ねて、十八歳になって、十九歳になるんだ。
十年後の俺は、緋色みたいに上手な絵を描いてるかな?楽しみだな。
ああ、幸せ。
たくさん、ぐるぐるしたりぎざぎざしたりして、紙も手も真っ黒になった頃、青葉がにこにこと言った。
すごく楽しい気分だった俺は、うん、と頷いて新しい白い紙に丸を描く。
あまりがたがたせずに、ちゃんと端と端を繋げることができた!嬉しくて、目のありそうなところはここかな、と横長の丸を二つ大きな丸の中に入れた。うん。格好いいぞ。鼻は丸じゃないな、と青葉の顔をじっと見てみる。長い線を描いて先っぽに丸を描こう。口も、丸じゃない。横に一本、線をひっぱってみる。
昨日よりだいぶ良い出来の、顔っぽいものになってきた。
耳。昨日描き忘れていた耳も。耳は丸い。顔の横に二つ、小さな縦長の丸をくっつけた。
髪の毛は真っ直ぐで短い。格好よく描けるかな。
ずっと俺の頭の中にいる大好きな人を思い浮かべながら描くのは、とても楽しい。
「緋色殿下だね」
当たり。すごいな、青葉。どうしてすぐに分かったの?
「よく似てる。上手!」
「ふふ」
そうかな。うん。なかなか上手くいったかも。
「じゃあ、この上の辺りに、誰を描いたか文字で書いて」
「緋色って?」
「そう。それで、下の方になるちゃんの名前を書いて」
「なんで?」
「誰が何を描いたか、分かるようにしておくんだよ」
「ふーん」
俺のってすぐ分かるのに?
首を傾げながらも、紙の上の方に「ひいろ」と書いた。下には「成人」と書く。
「上手にできたねえ。完成だ。こりゃ上手だ」
持ち上げて眺めていたら、青葉がすっごく褒めてくれるから、嬉しいのに恥ずかしいという不思議な気持ちになった。
「もう一個描く」
「いいね。これは大事に置いておこう」
青葉は、俺が名前を書いた下に何か数字をさらさらと書いて、置いておく用の箱に入れた。さっきまで、ぐるぐる描いたりぎざぎざ描いたりしてた真っ黒な紙は、捨てる紙を入れる箱に入っている。
「何書いたの?」
「日付けを書いといたんだよ。なるちゃんがいつ描いたか分かるように」
「何で?」
もっと上手に描けたら、今描いたのは捨てるつもりだったんだけど。
「こういうのはね。日にちが経ってから見ると、楽しいものなんだよ」
「?」
「分からないかな?……そうだ!明日、常陸丸や力丸、乙羽ちゃんと緋色殿下が学校で描いた絵を持ってくるから、一緒に見ようか」
青葉が楽しそうに笑って言った。
みんなの描いた絵?
「見る!見たい!」
「ね?見たいでしょ?」
「うん」
「なるちゃんのも、十年後に見るために置いておこう」
「誰かが見る?」
「なるちゃんと私で一緒に見ようよ。その頃には、きっと今より絵が上手になってて、初めて描いた顔の絵はこんなのだったのかあ、って言うに違いないよ」
「笑うかも」
だって、青葉に教えてもらう前の昨日の絵がもう、下手くそで笑っちゃうくらいなんだから。
「大いに笑って楽しもう」
明日の明日のまた明日。
俺は、そんな先にもここで笑ってるのが当たり前だと思っているのか。
あっという間に楽しく過ぎていく一日を重ねて、十八歳になって、十九歳になるんだ。
十年後の俺は、緋色みたいに上手な絵を描いてるかな?楽しみだな。
ああ、幸せ。
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