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第五章 それは日々の話
118 仕事が増えた…… 緋色
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「さてさて。ますますお仕事の増えそうな殿下のお邪魔をこれ以上してはいけませんね。なるちゃん。私達はお部屋へ行きましょうか」
青葉が良い笑顔で立ち上がる。
何?
今、なんと言った?
「うわあ……。名字無しにも免許試験を平等に受けさせるための制度の話が発展して、性別で差別をしている免許試験の、差別をやめさせる話になったぞ……」
常陸丸の呟きに愕然とした。え?なんだ?そういうことになるのか?
いや、待て。
それも俺がやるのか?
朱実に提案だけしたらいいじゃないか。
「女性医師は、是非いて欲しいですね。これまでも散々言われていたでしょう?」
青葉が、成人の手を引いてソファから立ち上がらせながら言う。
「ああ」
ああ、そうだ。母上は気の病が悪化してからは特に、医師の診察を嫌がったと聞く。他人と向かい合うのが怖い。特に男の人が怖いと言っていたらしい。城のお抱えの医師は、免許持ちしかいないから当然、男ばかり。
悩む父上に、代々、医師の仕事を生業としている薬師寺家には、女性医師もいる、と紹介したのは九条利胤だった。元々体が弱く、子が為せないことに気を病んでいた利胤の妻を、治療してくれていたそうだ。
城の医師に内緒で薬師寺家に診察を頼み、何とか母上の命を繋いだらしい。母上は、本当に酷い状態の時には、自ら命を断とうとしたこともあったと聞いたのはいつ、どんな時だったか……。
五条夫妻も、お抱え医師は薬師寺だったな。あそこも子がないから、男性医師には相談しにくいあれこれがあったのだろう。
女性医師と呼んではいるが、免許試験を受験させてもらえないのだから、正式な医師ではない。男性医師の助手として訪れて診察をするのか。
なんとも面倒な……。
「薬師寺なら、すぐに受かる女性が多くいそうだな」
「ええ。あそこは自家の診療所と、併設の私設学校を持っていて、名字無しも女も偏見なく才能のある者を学ばせてくれます。診療所の手伝いで実技も学べる上にお給料も出て、そこから学費や寮費を払わせてくれるのですよ」
俺の呟きに、睦峯が勢い込んで答える。
「お前、薬師寺出身か」
「はい!」
「そういえば、どうやって城の研究機関に?」
名字無しが城の敷地内にある研究機関の助手とは、よく考えたらあり得ない。城の使用人は、名字持ちからしか採用しないはずだ。
「博士が、使える助手が欲しいと薬師寺家に頼んだそうですけど……」
ああ。天才忍部博士の助手が務まるような人材が、城の中では見つからなかったのか。博士も、使える人間がどこにいるか分かっていたということだな。
これは薬師寺は期待できる。
「やるしかないか……」
うええ、とぼやいた常陸丸が、ふと聞いた。
「そういえば、父上は?」
「利胤さまと仲良く出かけたよ」
「うわ、ずりい。俺もそっち行きたい」
訓練所だな。青葉を待つ間もじっとしてる気はないようだ。元気なじじいどもめ。
気になっていることをもう一つ聞いておこう。
「凉乃絵の免許はどうなった?」
「あー。まだです……。その、とても、お上手なんですよ、何でも。技能は問題ないんですが、その、速度が出せないようで……。車でさえ、のんびりと、ですね、その……」
「ああ、何となく分かった」
なんとも凉乃絵らしい。
「でも、楽しんでらっしゃるので、もうしばらくお二人で通われるようです」
そりゃ好都合。
今から通う女性達にとって、心強い味方になってくれることだろう。
青葉が良い笑顔で立ち上がる。
何?
今、なんと言った?
「うわあ……。名字無しにも免許試験を平等に受けさせるための制度の話が発展して、性別で差別をしている免許試験の、差別をやめさせる話になったぞ……」
常陸丸の呟きに愕然とした。え?なんだ?そういうことになるのか?
いや、待て。
それも俺がやるのか?
朱実に提案だけしたらいいじゃないか。
「女性医師は、是非いて欲しいですね。これまでも散々言われていたでしょう?」
青葉が、成人の手を引いてソファから立ち上がらせながら言う。
「ああ」
ああ、そうだ。母上は気の病が悪化してからは特に、医師の診察を嫌がったと聞く。他人と向かい合うのが怖い。特に男の人が怖いと言っていたらしい。城のお抱えの医師は、免許持ちしかいないから当然、男ばかり。
悩む父上に、代々、医師の仕事を生業としている薬師寺家には、女性医師もいる、と紹介したのは九条利胤だった。元々体が弱く、子が為せないことに気を病んでいた利胤の妻を、治療してくれていたそうだ。
城の医師に内緒で薬師寺家に診察を頼み、何とか母上の命を繋いだらしい。母上は、本当に酷い状態の時には、自ら命を断とうとしたこともあったと聞いたのはいつ、どんな時だったか……。
五条夫妻も、お抱え医師は薬師寺だったな。あそこも子がないから、男性医師には相談しにくいあれこれがあったのだろう。
女性医師と呼んではいるが、免許試験を受験させてもらえないのだから、正式な医師ではない。男性医師の助手として訪れて診察をするのか。
なんとも面倒な……。
「薬師寺なら、すぐに受かる女性が多くいそうだな」
「ええ。あそこは自家の診療所と、併設の私設学校を持っていて、名字無しも女も偏見なく才能のある者を学ばせてくれます。診療所の手伝いで実技も学べる上にお給料も出て、そこから学費や寮費を払わせてくれるのですよ」
俺の呟きに、睦峯が勢い込んで答える。
「お前、薬師寺出身か」
「はい!」
「そういえば、どうやって城の研究機関に?」
名字無しが城の敷地内にある研究機関の助手とは、よく考えたらあり得ない。城の使用人は、名字持ちからしか採用しないはずだ。
「博士が、使える助手が欲しいと薬師寺家に頼んだそうですけど……」
ああ。天才忍部博士の助手が務まるような人材が、城の中では見つからなかったのか。博士も、使える人間がどこにいるか分かっていたということだな。
これは薬師寺は期待できる。
「やるしかないか……」
うええ、とぼやいた常陸丸が、ふと聞いた。
「そういえば、父上は?」
「利胤さまと仲良く出かけたよ」
「うわ、ずりい。俺もそっち行きたい」
訓練所だな。青葉を待つ間もじっとしてる気はないようだ。元気なじじいどもめ。
気になっていることをもう一つ聞いておこう。
「凉乃絵の免許はどうなった?」
「あー。まだです……。その、とても、お上手なんですよ、何でも。技能は問題ないんですが、その、速度が出せないようで……。車でさえ、のんびりと、ですね、その……」
「ああ、何となく分かった」
なんとも凉乃絵らしい。
「でも、楽しんでらっしゃるので、もうしばらくお二人で通われるようです」
そりゃ好都合。
今から通う女性達にとって、心強い味方になってくれることだろう。
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