【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
464 / 1,321
第五章 それは日々の話

114 母さまの似顔絵  成人

しおりを挟む
 やっぱり、元気だったか?って聞いた。
 俺は思わずにこにこしてしまう。ほらね母さま、緋色ひいろはいつも、母さまのことを想っているよ。

「それでね。絵を破ってしまって無いって言うから、それが悲しいみたいだったから、母の絵ってどんなのかなって思って、描いてみようって思ったんだけど、俺、全然分かんなくて」

 緋色ひいろの膝の上に座るのは、すごく嬉しい。何でかな。嬉しくてどきどきするのに、安心してずっとここに居たいと思っちゃう。
 格好良い顔を見ながら、お出かけしてた時のことを説明した。
 髪の毛をつやつやのさらさらにしてもらった母さまは、いつもよりたくさんたくさん話して、欲しかった美容液も買って、すっきりした顔でお城に帰って行った。
 うちに来てくれて、ありがとうって言われたのは驚いた。ありがとうと言いたいのは俺の方だ。俺は、緋色ひいろに出会った日から、ずっとずっと幸せなんだから。

「母の絵?」
「うん。緋色ひいろの絵を破っちゃって無いんだって。その後の緋色ひいろの母の絵が母さまじゃ無かったって」
「ああー……。まあ、そうだな」

 緋色ひいろは、表情を変えずに呟くように言った。
 お出かけから帰って母さまと別れてから、母の絵って何?とじいやに聞いた。
 小学校で、母親への感謝を込めて似顔絵を描く授業があるんだって教えてくれた。父親を描く日もあって、皆プレゼントとして持ち帰って渡すらしい。似顔絵は、本人に似せて描いた絵。上手に描けていなくても、自分のことを想って顔を思い浮かべながら描いてくれたのだなあ、と思うと、とても嬉しいものですよ、とじいやは言った。
 毎年、感謝を表す日が決まっていて、小学校へ通っている子どもなら必ず描く。この国では、子どもは皆学校へ通うことに決まっているから、ほとんどの子どもが描いたことがあるらしい。
 親のいない子は、親代わりの、感謝を表したい人を思い浮かべながら描くのです、とじいやは言った。

「俺、丸が上手く描けない」

 皆描くのか、よし、俺も母さまの顔を描いてみよう、と思って、まずは丸を描いたんだけど、思ってる形にならない。絵なんて描いたことなかった。
 塗り絵は、誕生日プレゼントにもらって、色鉛筆ももらってるからたまにするけど、何もない真っ白な紙に、自分の頭に思い浮かべたものを描くなんて無理だろー。
 緋色ひいろは、黙って俺の使っていた鉛筆を右手に取ると、机にずいっと近寄った。左手で俺を抱えたままだ。
 俺の変な丸が描いてある紙の横のすきまに、緋色ひいろの描く線が形を作っていく。

「あ。母さまだ」

 優しそうな頬の形。ふわふわとした長い髪の毛。緋色ひいろと似ているのに柔らかい雰囲気の目元。ふわっとした小さめの口。
 緋色ひいろ、すごい!緋色ひいろ、絵がすごく上手!

「これ見て描いてみたらどうだ?」

 俺は、緋色ひいろの膝の上で座り直して、新しい紙を手前に寄せる。緋色ひいろの描いた母さまの絵を大事に横によけた。
 何度か描いてみる。
 真似てるつもりで線を引くけれど、ちっとも似ない。全然、描けない。

「うーん……」
「こういうのも、慣れが必要か。手本とかいるもんなのかもな。今度、青葉あおばに、お絵描きの練習時間も取るように伝えておくよ。まずは、昼飯を食うぞ」

 しばらく見ていた緋色ひいろが、俺を抱いたまま立ち上がる。お絵描きの練習、したいかも。
 机の上には、俺の変な模様みたいな絵と、緋色ひいろの描いた母さまの似顔絵が見える。
 そうだ。この緋色ひいろの絵を母さまにあげたらいいんじゃない?でも、俺の変な絵も付いてきちゃうか……。
 もう、緋色ひいろ。俺の絵の横じゃなく、新しい紙に描けば良かったのに!

 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...