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第五章 それは日々の話
114 母さまの似顔絵 成人
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やっぱり、元気だったか?って聞いた。
俺は思わずにこにこしてしまう。ほらね母さま、緋色はいつも、母さまのことを想っているよ。
「それでね。絵を破ってしまって無いって言うから、それが悲しいみたいだったから、母の絵ってどんなのかなって思って、描いてみようって思ったんだけど、俺、全然分かんなくて」
緋色の膝の上に座るのは、すごく嬉しい。何でかな。嬉しくてどきどきするのに、安心してずっとここに居たいと思っちゃう。
格好良い顔を見ながら、お出かけしてた時のことを説明した。
髪の毛をつやつやのさらさらにしてもらった母さまは、いつもよりたくさんたくさん話して、欲しかった美容液も買って、すっきりした顔でお城に帰って行った。
うちに来てくれて、ありがとうって言われたのは驚いた。ありがとうと言いたいのは俺の方だ。俺は、緋色に出会った日から、ずっとずっと幸せなんだから。
「母の絵?」
「うん。緋色の絵を破っちゃって無いんだって。その後の緋色の母の絵が母さまじゃ無かったって」
「ああー……。まあ、そうだな」
緋色は、表情を変えずに呟くように言った。
お出かけから帰って母さまと別れてから、母の絵って何?とじいやに聞いた。
小学校で、母親への感謝を込めて似顔絵を描く授業があるんだって教えてくれた。父親を描く日もあって、皆プレゼントとして持ち帰って渡すらしい。似顔絵は、本人に似せて描いた絵。上手に描けていなくても、自分のことを想って顔を思い浮かべながら描いてくれたのだなあ、と思うと、とても嬉しいものですよ、とじいやは言った。
毎年、感謝を表す日が決まっていて、小学校へ通っている子どもなら必ず描く。この国では、子どもは皆学校へ通うことに決まっているから、ほとんどの子どもが描いたことがあるらしい。
親のいない子は、親代わりの、感謝を表したい人を思い浮かべながら描くのです、とじいやは言った。
「俺、丸が上手く描けない」
皆描くのか、よし、俺も母さまの顔を描いてみよう、と思って、まずは丸を描いたんだけど、思ってる形にならない。絵なんて描いたことなかった。
塗り絵は、誕生日プレゼントにもらって、色鉛筆ももらってるからたまにするけど、何もない真っ白な紙に、自分の頭に思い浮かべたものを描くなんて無理だろー。
緋色は、黙って俺の使っていた鉛筆を右手に取ると、机にずいっと近寄った。左手で俺を抱えたままだ。
俺の変な丸が描いてある紙の横のすきまに、緋色の描く線が形を作っていく。
「あ。母さまだ」
優しそうな頬の形。ふわふわとした長い髪の毛。緋色と似ているのに柔らかい雰囲気の目元。ふわっとした小さめの口。
緋色、すごい!緋色、絵がすごく上手!
「これ見て描いてみたらどうだ?」
俺は、緋色の膝の上で座り直して、新しい紙を手前に寄せる。緋色の描いた母さまの絵を大事に横によけた。
何度か描いてみる。
真似てるつもりで線を引くけれど、ちっとも似ない。全然、描けない。
「うーん……」
「こういうのも、慣れが必要か。手本とかいるもんなのかもな。今度、青葉に、お絵描きの練習時間も取るように伝えておくよ。まずは、昼飯を食うぞ」
しばらく見ていた緋色が、俺を抱いたまま立ち上がる。お絵描きの練習、したいかも。
机の上には、俺の変な模様みたいな絵と、緋色の描いた母さまの似顔絵が見える。
そうだ。この緋色の絵を母さまにあげたらいいんじゃない?でも、俺の変な絵も付いてきちゃうか……。
もう、緋色。俺の絵の横じゃなく、新しい紙に描けば良かったのに!
俺は思わずにこにこしてしまう。ほらね母さま、緋色はいつも、母さまのことを想っているよ。
「それでね。絵を破ってしまって無いって言うから、それが悲しいみたいだったから、母の絵ってどんなのかなって思って、描いてみようって思ったんだけど、俺、全然分かんなくて」
緋色の膝の上に座るのは、すごく嬉しい。何でかな。嬉しくてどきどきするのに、安心してずっとここに居たいと思っちゃう。
格好良い顔を見ながら、お出かけしてた時のことを説明した。
髪の毛をつやつやのさらさらにしてもらった母さまは、いつもよりたくさんたくさん話して、欲しかった美容液も買って、すっきりした顔でお城に帰って行った。
うちに来てくれて、ありがとうって言われたのは驚いた。ありがとうと言いたいのは俺の方だ。俺は、緋色に出会った日から、ずっとずっと幸せなんだから。
「母の絵?」
「うん。緋色の絵を破っちゃって無いんだって。その後の緋色の母の絵が母さまじゃ無かったって」
「ああー……。まあ、そうだな」
緋色は、表情を変えずに呟くように言った。
お出かけから帰って母さまと別れてから、母の絵って何?とじいやに聞いた。
小学校で、母親への感謝を込めて似顔絵を描く授業があるんだって教えてくれた。父親を描く日もあって、皆プレゼントとして持ち帰って渡すらしい。似顔絵は、本人に似せて描いた絵。上手に描けていなくても、自分のことを想って顔を思い浮かべながら描いてくれたのだなあ、と思うと、とても嬉しいものですよ、とじいやは言った。
毎年、感謝を表す日が決まっていて、小学校へ通っている子どもなら必ず描く。この国では、子どもは皆学校へ通うことに決まっているから、ほとんどの子どもが描いたことがあるらしい。
親のいない子は、親代わりの、感謝を表したい人を思い浮かべながら描くのです、とじいやは言った。
「俺、丸が上手く描けない」
皆描くのか、よし、俺も母さまの顔を描いてみよう、と思って、まずは丸を描いたんだけど、思ってる形にならない。絵なんて描いたことなかった。
塗り絵は、誕生日プレゼントにもらって、色鉛筆ももらってるからたまにするけど、何もない真っ白な紙に、自分の頭に思い浮かべたものを描くなんて無理だろー。
緋色は、黙って俺の使っていた鉛筆を右手に取ると、机にずいっと近寄った。左手で俺を抱えたままだ。
俺の変な丸が描いてある紙の横のすきまに、緋色の描く線が形を作っていく。
「あ。母さまだ」
優しそうな頬の形。ふわふわとした長い髪の毛。緋色と似ているのに柔らかい雰囲気の目元。ふわっとした小さめの口。
緋色、すごい!緋色、絵がすごく上手!
「これ見て描いてみたらどうだ?」
俺は、緋色の膝の上で座り直して、新しい紙を手前に寄せる。緋色の描いた母さまの絵を大事に横によけた。
何度か描いてみる。
真似てるつもりで線を引くけれど、ちっとも似ない。全然、描けない。
「うーん……」
「こういうのも、慣れが必要か。手本とかいるもんなのかもな。今度、青葉に、お絵描きの練習時間も取るように伝えておくよ。まずは、昼飯を食うぞ」
しばらく見ていた緋色が、俺を抱いたまま立ち上がる。お絵描きの練習、したいかも。
机の上には、俺の変な模様みたいな絵と、緋色の描いた母さまの似顔絵が見える。
そうだ。この緋色の絵を母さまにあげたらいいんじゃない?でも、俺の変な絵も付いてきちゃうか……。
もう、緋色。俺の絵の横じゃなく、新しい紙に描けば良かったのに!
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