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第五章 それは日々の話
111 お手柄 成人
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「緋色殿下は、こちらの五種類の香りを全て購入されて持ち帰られましたので、この中から選んでみて頂けますでしょうか」
少し静かになった後でまた、店主の声が聞こえてきた。
いよいよ美容液を馴染ませる行程かな。見に行こうか悩む。お茶を飲みたいけどまだ湯気が出てるし、何だか疲れてソファから立ち上がれない。もう少ししてから行こうかな。
「ああ。これだわ」
「畏まりました。本日、持ち帰り用もこちらで?」
「ええ。一つ包んで頂戴」
髪につける美容液は、あっさりと決まったみたいだ。嬉しそうな雫石母さまの声が聞こえてくる。
「緋色さんは、どうしてこの五種類を?」
「これは全て、香りが違うだけで同じ特徴の美容液でして。手に出して髪に馴染ませている間は、これらの香りが漂っているのですが、少し時間が経つとほとんど香りを感じなくなるんです」
「ああ、そうなのね。なるひとちゃんのためかしらね……」
「ご伴侶様が、あまり強い匂いは好まれないとお聞きしたので、こちらをお薦めしました。緋色殿下が本店に足をお運びくださり商品をご購入頂いた日も、店内の匂いに堪えられなかったとのことで、成人さまは、私がご挨拶する前に店を出ておられたんです。そやから、本日、成人さまに、初めましてとご挨拶しておったんです」
「そうだったのね。一緒に出掛けていたはずなのに何故、初めましてなのかしら、と思っていたのよ」
「成人さまには色々と気付かされたことがありましてね。私などは、家が代々、美容液を売る店を営んでおるものですから、小さい頃から様々な匂いに囲まれて育っとるでしょう?そやから、少し強いくらいの香りを好んどりました。店の中の匂いに逃げ出す方がいらっしゃるとは考えもしとりませんでした。強い香りが集まると、それぞれがええ香りでも、喧嘩してしもて不快になることもあるんやということを、気付かせてもらいました」
こちらの店は、たくさん美容液が置いてあっても、入った途端に臭いって思うことは無かった。まだ準備中で、試しに美容液を開けて匂いを確かめる人がいないからかもしれないけど。でも、助かった。俺、美容液の店が臭くて逃げたことすっかり忘れてて、母さまを連れていってあげる、って言っちゃってたもんな。
「こちらに店舗を出すに当たって、ようけ勉強させてもらいました」
「あらあら。緋色さんとなるひとちゃんのお手柄かしら」
「ほんまに、感謝してもしきれんほどです」
「それは、良かったわ。私も、癖のある髪がしっとりおさまって、本当に助かっているのよ」
母さまのふわふわの髪の毛、好きだけどなあ。
「緋色殿下は、皇妃殿下に必要な品を選んで購入されていかれたんですね。ご家族、仲睦まじいようで何よりでございます」
少し、話し声が途切れた。
俺は、やっと湯気が出なくなったお茶を飲む。
美味しい。
「仲睦まじい……。そうね。そうなるのかしら。……初めて……、緋色さんから何かプレゼントされたのは、初めてだったものだから、嬉しくて……、私、少し……、いえ、かなり、浮かれていた、わね……」
少し静かになった後でまた、店主の声が聞こえてきた。
いよいよ美容液を馴染ませる行程かな。見に行こうか悩む。お茶を飲みたいけどまだ湯気が出てるし、何だか疲れてソファから立ち上がれない。もう少ししてから行こうかな。
「ああ。これだわ」
「畏まりました。本日、持ち帰り用もこちらで?」
「ええ。一つ包んで頂戴」
髪につける美容液は、あっさりと決まったみたいだ。嬉しそうな雫石母さまの声が聞こえてくる。
「緋色さんは、どうしてこの五種類を?」
「これは全て、香りが違うだけで同じ特徴の美容液でして。手に出して髪に馴染ませている間は、これらの香りが漂っているのですが、少し時間が経つとほとんど香りを感じなくなるんです」
「ああ、そうなのね。なるひとちゃんのためかしらね……」
「ご伴侶様が、あまり強い匂いは好まれないとお聞きしたので、こちらをお薦めしました。緋色殿下が本店に足をお運びくださり商品をご購入頂いた日も、店内の匂いに堪えられなかったとのことで、成人さまは、私がご挨拶する前に店を出ておられたんです。そやから、本日、成人さまに、初めましてとご挨拶しておったんです」
「そうだったのね。一緒に出掛けていたはずなのに何故、初めましてなのかしら、と思っていたのよ」
「成人さまには色々と気付かされたことがありましてね。私などは、家が代々、美容液を売る店を営んでおるものですから、小さい頃から様々な匂いに囲まれて育っとるでしょう?そやから、少し強いくらいの香りを好んどりました。店の中の匂いに逃げ出す方がいらっしゃるとは考えもしとりませんでした。強い香りが集まると、それぞれがええ香りでも、喧嘩してしもて不快になることもあるんやということを、気付かせてもらいました」
こちらの店は、たくさん美容液が置いてあっても、入った途端に臭いって思うことは無かった。まだ準備中で、試しに美容液を開けて匂いを確かめる人がいないからかもしれないけど。でも、助かった。俺、美容液の店が臭くて逃げたことすっかり忘れてて、母さまを連れていってあげる、って言っちゃってたもんな。
「こちらに店舗を出すに当たって、ようけ勉強させてもらいました」
「あらあら。緋色さんとなるひとちゃんのお手柄かしら」
「ほんまに、感謝してもしきれんほどです」
「それは、良かったわ。私も、癖のある髪がしっとりおさまって、本当に助かっているのよ」
母さまのふわふわの髪の毛、好きだけどなあ。
「緋色殿下は、皇妃殿下に必要な品を選んで購入されていかれたんですね。ご家族、仲睦まじいようで何よりでございます」
少し、話し声が途切れた。
俺は、やっと湯気が出なくなったお茶を飲む。
美味しい。
「仲睦まじい……。そうね。そうなるのかしら。……初めて……、緋色さんから何かプレゼントされたのは、初めてだったものだから、嬉しくて……、私、少し……、いえ、かなり、浮かれていた、わね……」
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