【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

108 美容液の店ができた!  成人

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 商店街を歩くお客さんは少なかった。デパートと違ってお外だから、寒いとお客さんが少ないのかな。デパートは建物の中に店があるから、全部暖かいもんね。あそこなら買い物に行ってもいいって緋色ひいろも言ってたし。
 うーん。
 でも、俺は商店街が好きだなあ。
 道行く人やお店の人と挨拶して歩くのは楽しい。デパートでは、そんなことはしていなかった。ちょっと値段も高いしなあ。
 今日は、店の外に出ている店員さんも店主も少なくて、あまり立ち止まって話をすることもなく、髪の美容液のお店に着いた。雫石しずく母さまは、あまりたくさんの人が集まる場所にいると疲れてしまうみたいだから、ちょうど良かったな。

「足を運んで頂き、ありがとうございます」

 店の前で、着物姿の男の人が深々と頭を下げる。寒いのに、俺たちが来るのをずっと待っていてくれたのかな?それとも、もうすぐ着きますよって誰かが報告したのかも。
 俺が雫石しずく母さまの所へ行くときはいつも、俺が来ることが分かって待っててくれるし、母さまの行動がしやすいように、誰か報告係がいるんだな、きっと。

「まずは、店内へ」

 こんにちは、と俺が言って、母さまが軽く頷くのを見て、男の人が店の中へと案内してくれる。壱臣いちおみの食堂だった店の中は、元が食堂だったなんて全く分からない様子になっていた。そんなに広くない店内の壁沿いに棚が置かれて、綺麗な瓶が並んでいる。真ん中は物を置かずに広くしてあって、棚が見やすい。

「まあ」

 雫石しずく母さまが声を上げて、フードを外した。

「綺麗ねえ、なるひとちゃん」

 うんうん。
 髪の美容液は、入れ物の瓶から綺麗なんだよね。この入れ物はすごく好き。きらきらしてて、綺麗。
 前に西の国でお店に入ったときは、匂いがキツすぎてすぐに飛び出してしまったけれど、ここはまだ大丈夫。今のところそんなに強い匂いじゃないから、瓶をゆっくり見られそう。
 男の人は、俺と母さま、母さまの侍女さんとじいやが中に入ったのを見ると、扉をしっかりと閉めて鍵をかけ、母さまの前に跪いて、左拳の上に右手を重ねた。

「皇妃殿下と成人なるひとさまにご挨拶申し上げます。店主の斑木まだらぎ行幸みゆきと申します。本日はわざわざ足をお運び頂き、至極光栄にございます」
「はじめまして。今日は案内をお願いね」

 母さまが、すっと背筋を伸ばして礼を受けているので、俺も隣で真っ直ぐに立つ。敬礼しそう。
 俺の名前も言ってたから、俺もちゃんと礼を受けないといけないんだよね?

「は、はじめまして。お願いします」

 俺の言葉に、ふふっと母さまが笑う。

「さあ、見せて。緋色ひいろさんのお土産の品を使いきってしまって、この店が開くのをとても楽しみにしていたのよ」
「ありがとうございます。奥に、座ってご案内できるお部屋と、お手入れのできる場所を設けておりますので、是非そちらで専門的な髪のお手入れをお受けになりませんか?」
「まあ。してみたいわ。是非お願い」

 専門的なお手入れ?
 上手な美容液の塗りかた?
 見たい!

成人なるひとさまもされますか?」
「んーん、しない。俺のは緋色ひいろがする」
「あらあら」
「これは、失礼致しました。お待ちの間に美容液のご案内を?」
緋色ひいろが買うからいい。俺は、お手入れの仕方を見たい」
「なるひとちゃんは、私や赤璃あかりちゃんの髪の毛の手入れをしてくれることがあってね。習いたいのね」

 うん。もっと上手になりたい。

「それは、是非ご見学なさっていってください」

 楽しみ!
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