【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

99 私のためだけの贈り物  三郎

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 人の前に立つことに気が引けて、どうしても顔がうつ向いてしまう。

「おめでとう!」

 名前を呼ばれ、祝いの言葉をたくさんの人からもらってなお、呟くようにありがとうと言うのが精一杯で、情けない。
 昨年までは、もっと大勢の人の前に座り、きり、と顔を上げて、皆の心遣いをありがたく思う、などと告げていたというのに。
 拍手をもらった後にその場に座ると、おめでとう、と言いながら様々な贈り物が手渡される。顔も知らぬ者からも、飴玉一つ、手拭い一枚、ポケットに入る大きさのちり紙一つなど渡されて、常陸丸ひたちまるさまと乙羽おとわさまの連名で、名前入りの上等なペンも頂いた。

「殿下がな、三郎さぶろうも専用のペンが無いと不便だろって仰ったんだ」

 そう言って、お二人で笑っていらっしゃった。つまり、緋色ひいろ殿下のお心も入っている贈り物ということだ。
 なんと、ありがたいことか。
 殿下が、思いついた品を簡単に人に渡すわけにはいかないことは分かる。ついこの間まで、自分もそうだったからだ。使い古しの物でさえ、誰かの手に渡れば下賜品となるから、気を付けなければいけない、と小さな頃から言われていた。
 ……遠い、まるで自分の記憶とは思えないほど遠い話や。九鬼くきでない私が何を渡したところで、その品に価値など無いというのに。
 そして、昨年までの誕生日の宴の日に積み上がっていた贈り物が、何一つ思い出せない。とんでもなく上等な品が、山となって積み上がっていたと思うのだが、そういえばあれらは、どんな物やったんやろうか。自分の手元に届かなかった所をみると、母上やお祖父さまが喜ぶような品が、贈られていたのかもしれない。
 手元に贈られる、私のためにと考えられた品々を見ながら、胸にじわりと温かいものが溢れてくる。
 私の、私のためだけのプレゼント……。
 成人なるひとさまが私にくれたのは、手の平に収まる大きさの、見事な絵が描かれている櫛だった。艶々とした黒で塗られた上に、金と銀で花の絵が描かれていて、とても上等な品だ。
 高かったんやないやろか。
 昔なら気にも止めんようなことが、ふと頭に浮かぶ。
 自分でお金を稼ぎ、稼いだお金で買い物をした今なら分かる。同じ用途の品にも様々な値段が付いていて、安い品には安いなりの理由があり、高い品には高いだけの手間ひまや素材の金がかけられているのだと。何も考えずに、渡される物を使っていた頃とは違う。
 そして、成人なるひとさまができる仕事は限られていて、体力的にも長い時間の労働は難しく、お金を稼ぐのが私たちより大変であることも知っている。
 なのに、惜しげもなくこんな高級な品を私なんかに……。

「あり……ありがとう、ございます」

 渡される全ての贈り物が嬉しくて、しばらく、櫛を手に動けなかった。
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