【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
438 / 1,321
第五章 それは日々の話

88 大好きのもっと上  成人

しおりを挟む
 乙羽おとわはまだ、子どもの小さな洋服を色々と見ていた。

乙羽おとわ、子ども欲しいか?」
「え?私、無理よ?」
「いや、その、だから、養子貰うとか……」
常陸丸ひたちまる、育てたいの?」
「いや、乙羽おとわが欲しいなら……」

 乙羽おとわが少し口をつぐんで、手に持っていた子ども用の、マントみたいな上着を棚に戻した。
 戻した上着は、今日、俺が着ている上着に似ている。袖がはっきりとしていなくて、ふわふわと広がっているから、左腕が半分しか無いことが分かりにくい形なんだ。ポンチョって、衣装部の人は言ってたな。帽子も付いているけど、被ってない。目の傷は、そんなに目立たなくなってきたから。左目が開くことは、もう二度と無いけれど。
 今日は、あまり左腕をじろじろと見られていないから、目立たなくすることに成功していると思う。
 緋色ひいろたちといるから、俺じゃなく緋色ひいろたちに視線が集まってるのかもしれないなあ。緋色ひいろはものすごく格好いいし、常陸丸ひたちまるも強そうで格好いい。乙羽おとわは美人過ぎるほど美人だし。
 とりあえず、この上着はすごく良い。着やすいし、脱ぎやすい。今度、こんなのがあるよって斑鹿乃むらかのに教えてあげよう。

「私の子どもは、なるだけで十分」

 乙羽おとわの声にびっくりする。
 え?俺?

「ええ?俺、成人なるひとのお父さんなのか?」
「そうよ。私はなるを立派に育ててるのよ」

 うーん。そうなの?確かに、乙羽おとわにはずっとお世話になってるなあ。俺に、初めて飴をくれた人達。大好きだから、俺はそれでもいいよ。

「ええ……。まあ、いいけど……」

 常陸丸ひたちまるが言いかけてから、はっとした。

「いや、駄目だ乙羽おとわ。それだと、成人なるひとの伴侶の殿下も、俺らの子どもになっちまう」
「可愛くないわ……」
成人なるひとならなあ、まあ……」
成人なるひと、次行くぞ」

 緋色ひいろが俺を抱き上げて、二人を置いて店を出ていく。

「あいつら、馬鹿だろ」
「え?俺、子どもでもいい」
「はあ?」
「だって、常陸丸ひたちまる、飴くれるし。乙羽おとわ好きだし」
「もう。置いていかないでくださいな、殿下」

 追いついてきた乙羽おとわが、息を切らしている。緋色ひいろは歩くのが速いからねえ。

「下りるー」

 すたすた歩いてたら、並んでいる店屋を覗くこともできないよ。
 はいはい、と緋色ひいろは俺を下ろして、さっき買ったプレゼントの袋を持ってくれた。
 
「次は玩具屋さんに行ってもいい?なるはもう末良すえよしのプレゼント買ったから、別のとこ行く?」
「おもちゃ、見たい」
「じゃ、一緒に行こ」

 ふう、と息を整えた乙羽おとわが差し出してくれた手を握る。

「俺、乙羽おとわが好き」
「私も。なるのこと、大好きよ」
常陸丸ひたちまるも好き。緋色ひいろは一番好き」
「私も。殿下のことも大好き。常陸丸ひたちまるのことは」

 乙羽おとわは、俺の右の耳に口を寄せた。

「愛してる」
「愛してる?」
「いっぱい大好きってことよ」
「じゃ、俺も緋色ひいろを愛してる」

 俺たちが小さな声で話してる後ろから、緋色ひいろ常陸丸ひたちまるの声が聞こえる。

「いいとこ姉弟だろ」
「じゃ、俺が殿下の兄ってことでいいっすか」

 ぱん、と緋色ひいろに叩かれた常陸丸ひたちまるの頭がいい音を立てた。
 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...