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第五章 それは日々の話
69 幸せな休日 緋色
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いつもの面子で、動物園へと向かう。生松の許可は、あっさりと下りた。
「まだ寒さが本格的になる前に、楽しんで来たら良いですよ」
成人を丁寧に診察して、よし、と頷いた生松が言う。
そういえば成人は、昨年の冬は、寒さに体調を崩しまくったな。
皇都は、帝国よりかなり気温が低いことは分かっているつもりだったが、あんなに寒さに弱いとは思わなかった。それなりに分厚い服を着て出ているのに、外へ出かけると必ず熱を出した。
本人も、いつも通りに、金魚に会いに行ったり、散歩したりしたい気持ちがあったので、もこもことたくさん着込んで出掛けていたのだが、どうにも体がついていかなかったらしい。
皇都での最初の冬は、ほとんどベッドで過ごしていたので、寒さに弱いとも気付かなかったし、耐性もつかなかったのだろう。寒がりってのは、いつまでも寒がりだしな。俺は、小さい頃から暑いのが苦手だ。今も苦手だから、成人もいつまでも寒さは苦手なままだろう。気をつけてやらないと。
もうすぐ、三回目の冬が来るのか……。
眠い頭で、隣に座る成人をぼんやりと見る。
一日は、毎週決まっている休みの日だが、もう一日は特別に休んで、二日間の休みを取っての泊まり旅行なので、時間に余裕はない。朝早くに起きて出発することになったが、まだ眠い。
まあ、着く頃までには目が覚めるだろう、と車の中で寝ておくことにした。興奮して早起きだった成人も、自分の膝の上に頭を置かせて、ぽんぽんと背中を叩く。少しでも休んで、いっぱい遊ぼうな。
「着いたぞ」
常陸丸の声に、成人が膝の上からがばっと起き上がる。車の移動が苦手な乙羽も常陸丸の膝で寝ていただろう。成人が苦手だからとラジオの音すらない車内は、随分と静かだった。
「じいや、ありがとう」
寝起きのいい成人が、運転席の荘重に声を掛けて、車内では脱いでいた上着を着る。俺の上着も、生地の厚みを変えて、似たデザインにしてもらったから、成人の好きなお揃いになっている。
早く行こう、と引っ張られて、ぐうと伸びをした。
どうせ入場してすぐ、ぞうの前で止まるんだけどな。
車の荷物入れから、背もたれ付きの大きめのパイプ椅子を二脚取り出して手に持つと、常陸丸が横から手を出して受け取ってくれながら、けらけらと笑う。
「動物園の持ち物に見えねえ」
「お前達はいらないのか」
「俺たちは、結構色んなとこ見て回るんですよ。俺は、乙羽抱いて立ちっぱなしでも平気ですしね」
護衛ってのは、じっと立ってることが多いから、そういうのは得意なのか。
「そのうち、机もいるかもな」
「ぞうだけで、一日終わっちまう」
「それでもいいさ。成人がいいなら」
「ま、それもそうっすね」
常陸丸とは、六歳で初めて会った日から気が合ったが、乙羽への思いの強さだけは、正直、理解できる気がしなかった。自分より優先する他の存在、なんてものが本当にあるのか?と思っていた。
今ではどうだ。
成人のことばかり考えて、成人が楽しいように、嬉しいようにと気を配る。成人が嬉しそうにしていると、俺も嬉しい。
俺たちは、どこまでも似た者同士だったようだ。
手を繋いだ小さな二人が、動物園の門へ向かって歩きながら、早くー、と振り返る。
今日も、幸せな一日が始まる。
「まだ寒さが本格的になる前に、楽しんで来たら良いですよ」
成人を丁寧に診察して、よし、と頷いた生松が言う。
そういえば成人は、昨年の冬は、寒さに体調を崩しまくったな。
皇都は、帝国よりかなり気温が低いことは分かっているつもりだったが、あんなに寒さに弱いとは思わなかった。それなりに分厚い服を着て出ているのに、外へ出かけると必ず熱を出した。
本人も、いつも通りに、金魚に会いに行ったり、散歩したりしたい気持ちがあったので、もこもことたくさん着込んで出掛けていたのだが、どうにも体がついていかなかったらしい。
皇都での最初の冬は、ほとんどベッドで過ごしていたので、寒さに弱いとも気付かなかったし、耐性もつかなかったのだろう。寒がりってのは、いつまでも寒がりだしな。俺は、小さい頃から暑いのが苦手だ。今も苦手だから、成人もいつまでも寒さは苦手なままだろう。気をつけてやらないと。
もうすぐ、三回目の冬が来るのか……。
眠い頭で、隣に座る成人をぼんやりと見る。
一日は、毎週決まっている休みの日だが、もう一日は特別に休んで、二日間の休みを取っての泊まり旅行なので、時間に余裕はない。朝早くに起きて出発することになったが、まだ眠い。
まあ、着く頃までには目が覚めるだろう、と車の中で寝ておくことにした。興奮して早起きだった成人も、自分の膝の上に頭を置かせて、ぽんぽんと背中を叩く。少しでも休んで、いっぱい遊ぼうな。
「着いたぞ」
常陸丸の声に、成人が膝の上からがばっと起き上がる。車の移動が苦手な乙羽も常陸丸の膝で寝ていただろう。成人が苦手だからとラジオの音すらない車内は、随分と静かだった。
「じいや、ありがとう」
寝起きのいい成人が、運転席の荘重に声を掛けて、車内では脱いでいた上着を着る。俺の上着も、生地の厚みを変えて、似たデザインにしてもらったから、成人の好きなお揃いになっている。
早く行こう、と引っ張られて、ぐうと伸びをした。
どうせ入場してすぐ、ぞうの前で止まるんだけどな。
車の荷物入れから、背もたれ付きの大きめのパイプ椅子を二脚取り出して手に持つと、常陸丸が横から手を出して受け取ってくれながら、けらけらと笑う。
「動物園の持ち物に見えねえ」
「お前達はいらないのか」
「俺たちは、結構色んなとこ見て回るんですよ。俺は、乙羽抱いて立ちっぱなしでも平気ですしね」
護衛ってのは、じっと立ってることが多いから、そういうのは得意なのか。
「そのうち、机もいるかもな」
「ぞうだけで、一日終わっちまう」
「それでもいいさ。成人がいいなら」
「ま、それもそうっすね」
常陸丸とは、六歳で初めて会った日から気が合ったが、乙羽への思いの強さだけは、正直、理解できる気がしなかった。自分より優先する他の存在、なんてものが本当にあるのか?と思っていた。
今ではどうだ。
成人のことばかり考えて、成人が楽しいように、嬉しいようにと気を配る。成人が嬉しそうにしていると、俺も嬉しい。
俺たちは、どこまでも似た者同士だったようだ。
手を繋いだ小さな二人が、動物園の門へ向かって歩きながら、早くー、と振り返る。
今日も、幸せな一日が始まる。
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