【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

68 約束は覚えてる  成人

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 そうかあ。緋色ひいろは、内緒じゃないけど、なりたいものが無いのか。そんな人もいるんだな。俺も、さっき考えたばかりだし、色々なんだ。
 動物園行けるの、嬉しいな。常陸丸ひたちまる乙羽おとわもまた、一緒に行くかな。
 あ、そうだ。
 
常陸丸ひたちまるのなりたいものは何?」

 自分の隣で食事してる乙羽おとわを、にこにこ見ながら食べている常陸丸ひたちまるに聞いてみる。

「この年でなりたいものって言われてもなあ。俺は、乙羽おとわと結婚したいって思ってたから、願いは叶ってるな」
「私も。私も、常陸丸ひたちまるのお嫁さんになりたかったから、なりたいものになれちゃったわ」
「へええ」

 もう、なりたいものに、なれちゃった人もいるんだ。

睦峯むつみねは?」
「え?俺?」

 端に置かれた座椅子に座ったさいと、並んで座って昼食をとっている睦峯むつみねがびっくりと声を上げた。
 俺とさいは、頭の手術の後、一人で座るのが下手くそになってたから、座椅子をもらった。もう治ってきて一人で座れるようになったけど、下手くそで座れない日もある。座椅子に座ってたら、そんな日も転けないで済むので、いつも座椅子に座ることにした。座り心地が良くて、気に入ってる。

「俺も、なりたいものにはなれちゃいましたね。医者になりたかったんです。絶対に無理だと思ってたけど……」

 え?そうなの?
 初めて会った時から、白衣を着てて注射とか持ってたから、とっくにお医者さんなんだと思ってた。そういえば生松いくまつも、お勉強してたっけ。お医者さんになるって頑張ってた。

「あ、でも、またやりたいことができてます。成人なるひとさいさんの頭痛あたまいたが無くなるように治したい。頭の病気を治せる医者になりたい」

 睦峯むつみねは、真剣な顔で俺を見ながら、そう言った。
 俺の痛いのを治してくれる?
 嬉しい……。
 体が、ほわほわと温かくなるような気分で、すごく嬉しい。

「応援してやる。頑張れよ」

 緋色ひいろが、俺の口にまた、ご飯を持ってきながら言った。横を見ると、緋色ひいろはもう、食べ終わっていた。
 食べるの、忘れてた……。
 睦峯むつみねは、はい、と力強く頷いて、嬉しそうに睦峯むつみねを見ていたさいと顔を見合せ、笑い合った。
 あれ?二人は、すごく仲良しなんだなあ。

「大きくなりたいんなら、ちゃんと食べろ」

 緋色ひいろが、また箸で俺のおかずを持ち上げている。
 そうだった。
 俺は、口の中のご飯を一生懸命噛む。
 いっぱい美味しいもの食べて、大きくなるんだ。
 じいやが抱っこできなくなるくらい、重たくなる約束だからね!
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