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第五章 それは日々の話
64 すっきりした 力丸
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「力丸さま、食えたなら出てってくださいよ」
広末も、休憩を終えて厨房に来た。本格的に邪魔しちまう時間だ。
「広末、遅くにごめん。美味しかった」
俺は、片手で成人を抱いて立ち上がり、もう一方の手に、食べ終えた食器の盆を持った。
「いい。歩く」
右手に空の湯飲みを持った成人が、大して力の入ってない体を揺らす。
ミックスジュースを飲み終えたコップは、気付かれないように盆の上に乗せてある。
「気にすんな」
「大丈夫」
これを言い始めたらきかないことは知ってるから、仕方なく腕から下ろした。
もう少し、くっついてても良かったのに。
残念な気持ちを隠して、食器を流しへ運ぶ。洗うところまでしないと申し訳ないかな、と袖を捲っていると鼓与が笑った。
「洗ってくれるんですか?」
「遅くなったし?」
洗い終えてある食器を布巾で拭きながら、甘えます、と言う。鼓与は真っ直ぐで、甘え上手ないい子だ。
よたよたと歩いてきた成人から湯飲みを受け取り、洗っていいか?と聞く。頷くのを見てから、自分の皿と一緒に洗う。以前なら、立ち上がる前に、ひょいと取り上げて運んできていただろう。ミックスジュースのコップもあるからついでだ、とか言って、一つしか運べない成人を助けるつもりで、傷付けながら。自分でやりたい、という気持ちも理解できずに。
手助けすることが、いつも良い訳じゃない、と知った。上手くできない人には、手を貸した方が早いし安全だけれど、本人がやりたいと思っているなら、見守ることも必要なのだと、成人と友だちになって、はじめて知った。
俺は、兄上しかいなくて、従兄とかも皆歳上で、見守ってもらうばかりだったから知らなかったのかもしれない。なんでも皆と一緒にやりたがっては、失敗していた頃があったのに。
食器を拭いていた鼓与が、食糧庫から何か運び出そうとする村次に気付いて飛んでいく。
「お手伝いしますよ」
頼む、との返事を聞いてから受け取る鼓与に、上級者は違うな、と感心する。
雨降りの間は、有無を言わさず荷物を奪って運んでいたのを見た。無理をしていると思えば迷わない。調子が良さそうなら、返事を待つ。さじ加減が絶妙だ。
俺は、まだまだ好きな人の観察が足りなくて失敗するんだな。一番好きだと気付いたのすら、ついこの間だ。
さっきの子ども、重嗣は、鼓与のことを好きなんだろう。学校を卒業して物理的に離れてしまったから、自分なりに努力して会いに来た。でも、鼓与を観察できるほど近くにいなかったから、鼓与のなりたいものが分からない。
あいつも、気付いたら、俺と同じで落ち込むだろうけどなあ。
村次が鼓与のことをどう思っているのかは分からない。嫌いじゃない、どちらかと言えば好きだろう。けど、鼓与とおんなじほどの好き、じゃない。
それでも、鼓与はちっとも構わないように見える。側にいて、助けになれることを喜んでいるように見える。
本当の気持ちは、本人にしか分からないけれど。
「力丸。俺、部屋に戻るね?」
「俺も戻るよ」
厨房の出入り口付近まで歩いていた成人が、こちらを向いて言った。慌てて手を拭いて追いかける。
一緒に、廊下をゆっくりと歩きながら、階段上るのがきついんじゃないか、と気付いて嬉しくなった。荘重さまじゃなく、俺を呼んでくれたんだな。
「階段上るの、手伝おうか?」
「ありがと」
嬉しそうに笑う成人を見て、これでいいか、と思った。
そう思って、すっきりした。
俺が、成人を好きなのは俺の自由だ。おんなじだけの好きをもらえなくても、側で、成人が楽しく暮らせる手伝いができたら、俺は幸せかもしれない。
なあ、鼓与。
そういうことだろ?
広末も、休憩を終えて厨房に来た。本格的に邪魔しちまう時間だ。
「広末、遅くにごめん。美味しかった」
俺は、片手で成人を抱いて立ち上がり、もう一方の手に、食べ終えた食器の盆を持った。
「いい。歩く」
右手に空の湯飲みを持った成人が、大して力の入ってない体を揺らす。
ミックスジュースを飲み終えたコップは、気付かれないように盆の上に乗せてある。
「気にすんな」
「大丈夫」
これを言い始めたらきかないことは知ってるから、仕方なく腕から下ろした。
もう少し、くっついてても良かったのに。
残念な気持ちを隠して、食器を流しへ運ぶ。洗うところまでしないと申し訳ないかな、と袖を捲っていると鼓与が笑った。
「洗ってくれるんですか?」
「遅くなったし?」
洗い終えてある食器を布巾で拭きながら、甘えます、と言う。鼓与は真っ直ぐで、甘え上手ないい子だ。
よたよたと歩いてきた成人から湯飲みを受け取り、洗っていいか?と聞く。頷くのを見てから、自分の皿と一緒に洗う。以前なら、立ち上がる前に、ひょいと取り上げて運んできていただろう。ミックスジュースのコップもあるからついでだ、とか言って、一つしか運べない成人を助けるつもりで、傷付けながら。自分でやりたい、という気持ちも理解できずに。
手助けすることが、いつも良い訳じゃない、と知った。上手くできない人には、手を貸した方が早いし安全だけれど、本人がやりたいと思っているなら、見守ることも必要なのだと、成人と友だちになって、はじめて知った。
俺は、兄上しかいなくて、従兄とかも皆歳上で、見守ってもらうばかりだったから知らなかったのかもしれない。なんでも皆と一緒にやりたがっては、失敗していた頃があったのに。
食器を拭いていた鼓与が、食糧庫から何か運び出そうとする村次に気付いて飛んでいく。
「お手伝いしますよ」
頼む、との返事を聞いてから受け取る鼓与に、上級者は違うな、と感心する。
雨降りの間は、有無を言わさず荷物を奪って運んでいたのを見た。無理をしていると思えば迷わない。調子が良さそうなら、返事を待つ。さじ加減が絶妙だ。
俺は、まだまだ好きな人の観察が足りなくて失敗するんだな。一番好きだと気付いたのすら、ついこの間だ。
さっきの子ども、重嗣は、鼓与のことを好きなんだろう。学校を卒業して物理的に離れてしまったから、自分なりに努力して会いに来た。でも、鼓与を観察できるほど近くにいなかったから、鼓与のなりたいものが分からない。
あいつも、気付いたら、俺と同じで落ち込むだろうけどなあ。
村次が鼓与のことをどう思っているのかは分からない。嫌いじゃない、どちらかと言えば好きだろう。けど、鼓与とおんなじほどの好き、じゃない。
それでも、鼓与はちっとも構わないように見える。側にいて、助けになれることを喜んでいるように見える。
本当の気持ちは、本人にしか分からないけれど。
「力丸。俺、部屋に戻るね?」
「俺も戻るよ」
厨房の出入り口付近まで歩いていた成人が、こちらを向いて言った。慌てて手を拭いて追いかける。
一緒に、廊下をゆっくりと歩きながら、階段上るのがきついんじゃないか、と気付いて嬉しくなった。荘重さまじゃなく、俺を呼んでくれたんだな。
「階段上るの、手伝おうか?」
「ありがと」
嬉しそうに笑う成人を見て、これでいいか、と思った。
そう思って、すっきりした。
俺が、成人を好きなのは俺の自由だ。おんなじだけの好きをもらえなくても、側で、成人が楽しく暮らせる手伝いができたら、俺は幸せかもしれない。
なあ、鼓与。
そういうことだろ?
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