【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

58 みんな偉い  成人

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 久しぶりに布団から動けない。
 じっとしてたら何ともないのに、動くと頭が痛くて困った。前に、お薬飲んだら頭が痛いのが治まったから、お薬飲もうかと思ったんだけど、怖くて飲めなかった。あの時は、あんまりにも痛くて呻いていたら、緋色ひいろが口移しで飲ませてくれたんだったなあ。やっぱり自分でお薬飲むのは無理だ。お薬を飲んだら、良くないことが起こる、と俺の中の俺が言っていて、どうしても飲めない。
 大きく動かなければ大丈夫なので、くまを抱いて自分の布団で転がっている。
 雨の音が、ざあざあと聞こえて、他は何にも音がしない。
 前の家の方が良かったな。
 乙羽おとわがお掃除する音や、生松いくまつが勉強してる音が聞こえた。見えた。ここは、部屋の中にいると他の人の音が聞こえないし、だーれも見えない。
 ご飯だけは、ちゃんと食べようと頑張った。薬は飲めない。点滴は嫌い。注射も嫌い。ご飯を頑張って食べたら、全部しなくてすむからね。ご飯って凄い。美味しくて、俺の体を作ってくれて、しんどいのも治してくれる。食べるのが、大変なんだけど。
 噛む動作が頭に響く。雑炊だから、いっぱい噛まなくても飲みこめるけど、飲み込むのも下手くそだから気をつけないと。
 昼は、ベッドで乙羽おとわと食べた。乙羽おとわが、自分のご飯と俺のご飯を持って部屋に来てくれて、ベッドの横に机と椅子を置いて一緒に食べた。

「殿下が、今日はお休みするって駄々をこねて大変だったのよー」

 乙羽おとわは、いつも通りに、にこにこ話す。

「なるが起こしてくれたんでしょ。起こすのが一番大変だから、助かったわ」

 起こした訳じゃないんだよ。
 夜に一回起きてるから、緋色ひいろは今朝は、いつもよりもっと起きれなかった。ジリリリリって鳴り出した目覚まし時計を、半分寝たままぶん投げたからね。
 投げられた時計がまだ鳴ってたから、止めようと慌てて緋色ひいろの横で起き上がったら、頭がずきんって痛くなって、時計の甲高い音も頭に突きささってきて、そのままうずくまった俺のことが心配で、緋色ひいろの目が覚めただけー。

「起こしてなくて、時計も止めれなくて」
「ん?」
「俺、頭痛くて。緋色ひいろ、心配してた」

 しゃべるのも、ちょっとゆっくりになってしまう。振動が伝わると頭が痛い。声も小さくてごめんね。

「心配してたね。それで起きれたんだから、いいのよ。お仕事もちゃんと行って、殿下は偉い。なるも、ちゃんと寝てて偉い。ご飯もしっかり食べて偉い」

 乙羽おとわは、そっと頬っぺたを撫でてくれる。
 えへへ。
 そっか。
 じゃあ、いいか。

さいさんも、執務室でだけど、ちゃんと寝てたよ」

 おお。
 さいも偉い。

村次むらつぐはお仕事してたけど、鼓与ことが手伝いしてたから、重たい荷物は全部取り上げられてた。きっと休憩時間は、動かないように捕まって、足の手当てをされてるんじゃないかな。傷が痛む日の対処の仕方を、色々と生松いくまつに聞いてたし」

 鼓与ことが、離宮に仕事に来るようになってから、村次むらつぐは調子が良い。入院して、しっかりと治療したからかもしれないけど、痛そうに足を引き摺って歩くことがほとんど無くなった。鼓与ことは、村次むらつぐのお世話がとても上手だから、鼓与ことも偉い。鼓与ことの言うことをちゃんと聞いてる村次むらつぐも偉い。
 俺とご飯を食べてくれる乙羽おとわも偉い。
 ご飯を頑張って食べた。楽しかった。その後、眠れたから、頭の痛いのは少しずつ治ってくれた。
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