【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

51 皇太子の息抜き 2  緋色

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「ふーん」

 適当に相づちを打って、昼食を食べる。少しずつ色んな料理が小皿に盛られていて、昼から豪勢だ。俺は、好きなものを多く食べたい方だから、ちまちま盛られているのは性に合わない。この、主菜らしい天ぷらをもっと貰えないもんかな。昼は、丼とかの方が食べやすい。そういや朱実あけみは、丼なんて食べたことあるんだろうか。……まあ、赤璃あかりとお忍びで出掛けたりしているから、ありそうだ。

「西国の件はね、本当に上手くまとめてくれて感謝している。ご苦労だったね」
「いや、別に?」

 友人にかくを家に送り届けただけだ。礼を言われるほどのことはしていない。

「いやあ、あの歴史的建造物が無事で良かった」
「俺は、何もしてないぞ」

 九鬼くきの城を壊しそうになってたのは、じじい二人だ。後始末が面倒くさそうだから、あのまま残って良かったな。

「そうか。緋色ひいろは何もしてないのか」
「ああ」

 朱実あけみは、気の抜けた笑顔で昼食を食べている。その顔は、嫌いじゃない。
 あちらでの出来事は報告書で全部知ってるだろうに、何か聞くことなんてあるのか?

「それにしても、壱臣いちおみは、?今さら寝不足?」

 ほらな。全部知っているんだ、。昨夜のことだって、報告書がまだ届いてないだけだろう?届いたら読めばいい。

半助はんすけが馬鹿だから、被害が広がっただけじゃねえ?」
「ふふふっ。半助はんすけが馬鹿なの?」
壱臣いちおみも馬鹿だな」
「へえ?」
「大事なもんを簡単に手放す」
「ふーん」

 何だあ?にこにこ、にこにこと気持ち悪いな。

「それは確かに、馬鹿だねえ」

 だろ?
 何よりも大事なものを自覚しているくせに、腕の中に囲い込むことさえ躊躇う。そんなのは分かんねえな。

「俺は絶対に離さない」
「そう簡単に言える人間ばかりじゃないのさ」
「……朱実あけみだって離さないだろ」

 赤璃あかりはいつも、兄上の横にいる。小さな小さな子どもの頃から、そこにいた。

「あははは。それで、丸く収まったの?」
「知らん」
半助はんすけはとても気に入ってるんだから、ちゃんと護衛に返してほしいな」

 半助はんすけは見目が良くて、片腕が無いのに強くて、周囲に与える衝撃が大きい。朱実あけみはもともと、武家にしては細くて、綺麗な見た目の護衛を好む。常に二、三人連れていなくてはいけないから、あまり、でかい筋肉に囲まれていたくないんだろう。対面する相手に威圧を与えすぎて、対話ができないのも困るしな。

「こういうことは、緋色ひいろより成人なるひとに頼むのがいいかもね」

 何で成人なるひとなんだ?

「あいつは何も分かってねえぞ」
成人なるひとは、いつだって誰より先に分かってるよ?あの二人を、はじめから夫夫ふうふとして扱っていたのはあの子だけだ。緋椀ひまり三雲みくものこともね」
「…………」

 先入観が無いから、本当のことだけ見えてるってか?たまたまだろ?

「そういうもんなんだよ。緋色ひいろは、良い伴侶を得たね」

 そういうもんか。
 ああ。早く帰りたいな……。
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