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第五章 それは日々の話
44 初めてそれを知った 壱臣
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「出ていく?うちが?」
どこから?
半助の言ってることが分からんくて首を傾げる。動きを止めそうになったけど、服を脱がしてそのままでは、冷えてしまう。
手拭いを手に取り、絞り直して半助の背中を拭きながら考えた。
「あ、部屋?」
「……緋色殿下が言うてはったやろ?二人でおって体調を崩すなら部屋を分けろって」
ああ。それを半助は考えてくれてたんか。それで、出ていかんとってって……。
「嬉しい」
思わず、ぽつりと呟く。それは、うちからお願いしようと思ってたことや。
「うちも、半助にお願いしようと思てた。あの、うちも……」
ふ、と向けた目の前に腕のない右の肩。綺麗に処置されたそこは、元から何も無かったかのように、皮膚が覆っていた。よく鍛えた、右の腕があった場所。うちを守るために無くした……。
そっと汗を拭いながら、声を出せなくなってしまう。
申し訳なくて、これ以上のお願いなど、してはいけないような気がして。
背中を拭き終えてしまうと、前へ回るしかない。手拭いをまた桶の湯で絞る。逞しい筋肉の付いた胸や腹に視線を落としながら、自分と全く違う硬い体を拭っていく。
「うちも、なんや?」
少し待ってくれていたらしい半助の左手が、頬に当てられた。
「あ、いや、その……」
「こっち向いて、臣」
ぐ、と力を込めて顔が持ち上げられる。
「俺は臣が好きや。臣は俺のこと好きか?」
好き。半助はうちのことが、好き。
じわじわと言葉が染み込んでくる。
うちの作るご飯の味が好きなんやなくて?うちが九鬼やからやなくて?
うちのことが好き?こんな汚ない髪の毛やのに?こんな貧相な見た目やのに?迷惑しかかけんのに?
「な、んで?」
「優しいから。頑張りやさんやから。美味しいご飯を作れるから。可愛いから。弱いから」
するするする、と流れるように半助が言う。
うちは。
うちの気持ち?
側にいて欲しいと願ったのは、初めて正面から抱きしめてくれた人やから。寒かった体をあっためてくれた人やから。そんな人ができたら、頼ってしまうやろな、と思ってた。だから、誰にも頼ったらあかん、と思ってた。やっぱり依存してしまった。
迷惑やのに。人に迷惑をかけんようにだけ、考えてたはずやのに。二度と離れとうない、と願おうとしたのは、何で?
「あ、でも……またうちの所為で怪我とかしたら」
「臣の所為で怪我したことなんて無いけど?」
「腕……」
「これは、八朔の所為やろ?」
「…………」
気持ち。うちの気持ち。
そんなん知らん。
いつだって、迷惑をかけんようにだけ考えて……。
じっとこちらを見る目が答えを求めている。返事。返事は……。
「あの、うち、その、もう二度と半助と離れとうない、て昨日、思て、半助にお願いしよかと思てたんやけど……。その、やっぱり、二度とって言うのは……んっ……」
何が起こったのか。
誰とも近寄ったことが無いほど近くに半助の目が見えて。
唇に柔らかい感触があった。
何?なに?
え?息が苦し……。
「臣。二度と離さん」
ふ、と一度唇を離して半助が言った。ものすごく綺麗な顔で笑って。
うちが必死で息をしてるうちに、頬にあった手は頭の後ろに回って、また唇が下りてきた。
「これは、誓いのキスや。死ぬまで一緒におろな」
死ぬまで一緒に。胸がいっぱいになって、涙が溢れてくる。
これが、好きってこと?それなら。
「……嬉しい」
どこから?
半助の言ってることが分からんくて首を傾げる。動きを止めそうになったけど、服を脱がしてそのままでは、冷えてしまう。
手拭いを手に取り、絞り直して半助の背中を拭きながら考えた。
「あ、部屋?」
「……緋色殿下が言うてはったやろ?二人でおって体調を崩すなら部屋を分けろって」
ああ。それを半助は考えてくれてたんか。それで、出ていかんとってって……。
「嬉しい」
思わず、ぽつりと呟く。それは、うちからお願いしようと思ってたことや。
「うちも、半助にお願いしようと思てた。あの、うちも……」
ふ、と向けた目の前に腕のない右の肩。綺麗に処置されたそこは、元から何も無かったかのように、皮膚が覆っていた。よく鍛えた、右の腕があった場所。うちを守るために無くした……。
そっと汗を拭いながら、声を出せなくなってしまう。
申し訳なくて、これ以上のお願いなど、してはいけないような気がして。
背中を拭き終えてしまうと、前へ回るしかない。手拭いをまた桶の湯で絞る。逞しい筋肉の付いた胸や腹に視線を落としながら、自分と全く違う硬い体を拭っていく。
「うちも、なんや?」
少し待ってくれていたらしい半助の左手が、頬に当てられた。
「あ、いや、その……」
「こっち向いて、臣」
ぐ、と力を込めて顔が持ち上げられる。
「俺は臣が好きや。臣は俺のこと好きか?」
好き。半助はうちのことが、好き。
じわじわと言葉が染み込んでくる。
うちの作るご飯の味が好きなんやなくて?うちが九鬼やからやなくて?
うちのことが好き?こんな汚ない髪の毛やのに?こんな貧相な見た目やのに?迷惑しかかけんのに?
「な、んで?」
「優しいから。頑張りやさんやから。美味しいご飯を作れるから。可愛いから。弱いから」
するするする、と流れるように半助が言う。
うちは。
うちの気持ち?
側にいて欲しいと願ったのは、初めて正面から抱きしめてくれた人やから。寒かった体をあっためてくれた人やから。そんな人ができたら、頼ってしまうやろな、と思ってた。だから、誰にも頼ったらあかん、と思ってた。やっぱり依存してしまった。
迷惑やのに。人に迷惑をかけんようにだけ、考えてたはずやのに。二度と離れとうない、と願おうとしたのは、何で?
「あ、でも……またうちの所為で怪我とかしたら」
「臣の所為で怪我したことなんて無いけど?」
「腕……」
「これは、八朔の所為やろ?」
「…………」
気持ち。うちの気持ち。
そんなん知らん。
いつだって、迷惑をかけんようにだけ考えて……。
じっとこちらを見る目が答えを求めている。返事。返事は……。
「あの、うち、その、もう二度と半助と離れとうない、て昨日、思て、半助にお願いしよかと思てたんやけど……。その、やっぱり、二度とって言うのは……んっ……」
何が起こったのか。
誰とも近寄ったことが無いほど近くに半助の目が見えて。
唇に柔らかい感触があった。
何?なに?
え?息が苦し……。
「臣。二度と離さん」
ふ、と一度唇を離して半助が言った。ものすごく綺麗な顔で笑って。
うちが必死で息をしてるうちに、頬にあった手は頭の後ろに回って、また唇が下りてきた。
「これは、誓いのキスや。死ぬまで一緒におろな」
死ぬまで一緒に。胸がいっぱいになって、涙が溢れてくる。
これが、好きってこと?それなら。
「……嬉しい」
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