【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

40 終わらない夜  力丸

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 人の居なくなった室内に、部屋の主の嗚咽が響く。
 くそっ。
 それぞれ一番大事なもん抱えて帰っちまった。
 殺してくれって泣く子ども置いてさ。
 俺も今、すんげえ泣きたい気分なんだけど。
 俺は、ベッドの上で膝を抱えて泣く三郎さぶろうに近寄って、そうっと頭を撫でる。

「ううっ……うううぅ……」

 三郎さぶろうは、泣きながら頭をいやいやと振った。戸惑うようなそれが、俺の手を振り払うつもりが無いことは分かったので、そのままゆっくりゆっくり撫でる。
 一番好き、か……。
 昔、何度も女の子から告白された。
 力丸りきまるくん、好きです。
 好いてもらえるのはありがたいから、ありがとう、と返事をしたら、何故か付き合うことになっていて、二人で遊びに行こう、とか、二人で試験勉強しよう、とか言われる。訳が分からなくて、何で?友だちと皆で遊びに行った方が楽しいよ、皆で試験勉強した方が、得意な人に聞けていいんじゃない?と言うと、その子はものすごく怒った。
 私は力丸りきまるくんのことが一番好きなんだから、力丸りきまるくんも私を一番好きになって。
 そこでやっと気付く。
 俺は、友だちになったつもりだった。一番、どころかまだ好きかどうかも分かってない。嫌いではないよ。好いてくれる人を嫌いになったりはしないから。それを正直に言うと、じゃあ何で付き合うことを承諾したのか、と責められる。承諾した覚えがない、と言うと、大嫌い、と言われて俺の近くに寄らなくなった。一番好き、から大嫌いまでの流れが、全く理解できなかった。
 男友だちに聞いても、よく分からないと言う。
 その後は気をつけて、好きです、と言われたら、よく知らない相手には、俺は好きでも嫌いでもない、まだよく知らないから、と答えた。友だちだと思っていた人には、友だちとして好きだと言った。
 それでもいいから付き合って、と押しきられて付き合っても、いつも、私を一番好きになってほしいのに、と泣かれて終わった。一番好き、が分からなくて、身近なところを参考に、常陸丸あにうえ乙羽あねうえを想う気持ちかな、と判断すると、そんな気持ちは今まで抱いたことがなかったと断言できる。兄上は、一瞬の躊躇いもなく、護衛対象の緋色ひいろ殿下より義姉上を優先できるのだから。
 同性の同級生には、俺の強さをどこか怖がられていたこともあり、同じくらいの年齢で、本当に何のわだかまりもなく仲良くなれたのは、成人なるひと村次むらつぐが初めてだった。二人のことは、すっごい好きだから、これが本当に好きってことか、と楽しかった。友だち、いや親友だ。友だちよりもっと上の好き同士なんだ。あいつらも、俺のこと好きなのは分かってる。だって、三人で遊ぶのは本当に楽しい。……おんなじくらい好きなんだと思ってた。三人の好きが、お互いにおんなじくらいずつ行き合うから、親友なんだと。
 俺、成人なるひとのこと、一番好きだったんだなあ。
 改めて思うと、三郎さぶろうの泣き声につられて泣きそうになる。
 だって、俺はあいつのこと一番好きだけど、あいつは殿下が一番好きなんだ。殿下もあいつのことが一番好きで、きっと変わらない。あいつが俺を、一番好きになることはない。
 なんだ、これ。
 すっげえ、苦しい。
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