【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

39 夜の終わり  成人

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「いえ、成人なるひと。言ってもらって分かったこともあります。ありがとうございます」

 俺のごめんねに、生松いくまつがお返事をくれる。
 うん。
 俺も、ちゃんと皆のお話聞いて考えるようにする。
 大好きなのに、別の部屋で寝るのをいいよって言うなんて思わなかったんだ。何でかな。俺は、頭の手術した後、一人の病室で、寂しくて寝られなかったのに。
 俺はそう思っても、他の人もそう思うかは分からない。難しい……。どんな気持ちか、分かるものがあればいいのになあ。

壱臣いちおみ半助はんすけ。二人でいて体調を崩すのなら部屋を分けろ。部屋はいくらでもある」

 緋色ひいろの言葉に、半助はんすけがびくっと震えた。

「……殿下。少し時間をください。うちらは、話をせなあかん。お互いがお互いの気持ちを勝手に想像して、勝手に良いと思う判断をして……」

 壱臣いちおみは、泣いて泣いて腫れ上がった目を、しっかりと緋色ひいろに向けて、考え考え言った。

「間違えました」
「間違えたか」
「はい」

 はっきりと言う壱臣いちおみに、緋色ひいろは、にやっと笑った。

「俺は寝る。明日の朝、起こすな。起こすなら覚悟してこいよ」

 そのまま、俺を抱っこして歩き出した。

「あ?起きろよ?明日、休みじゃねえぞ」

 廊下にいた常陸丸ひたちまる緋色ひいろに話しかける。

「無理だ」
「はああ?俺が朱実あけみ殿下に怒られるんだからな。起こすぞ。起こすからな」
「ああ、頑張れ」

 また眠そうな顔になってきた緋色ひいろが、抱っこしてる俺の首に顔を付ける。んー、と息を吸い込んでから、あくびをした。
 くすぐったい。
 あったかい。

「うにゃ」

 あったかくなると、眠くなるねえ。

義父上ちちうえ、下ろしてください。歩けます」
「わはは。こんな機会逃してなるものか」

 じいじに抱かれたまま、生松いくまつが運ばれて行く。その後ろから、ふらふらとした足取りの半助はんすけを支えた壱臣いちおみが、部屋へ向かって歩こうとして、ぐらりと倒れそうになった。
 常陸丸ひたちまるが溜め息を吐いてから、半助はんすけの所へ駆け寄って、ひょいと肩に担ぐ。

「文句は聞かねえぞ」
「すみません。お願いします」
「……素直だな」
「意地を張っても、ろくなことがないと学びました」

 ぼそぼそとした半助はんすけの返事。

「素直はいいけど、明日起きられないとか言ってる奴みたいに、開き直るのもどうかと思うぞ」

 常陸丸ひたちまるの文句も遠ざかっていく。
 力丸りきまる三郎さぶろうの部屋から出てきたっけ?なんて思いながら、抱っこで運ばれてるうちに、眠ってしまった。

 
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