376 / 1,325
第五章 それは日々の話
26 穏やかな寝息 緋色
しおりを挟む
寝た、との報告を受けて、そっと成人の様子を見に行く。昼の休憩に入る時間を遅らせているから、午後の仕事の入りが遅くとも誰も何も言わない。
自分の部屋へ入るというのに、こっそりと扉を開けるのは何とも奇妙な感覚だが仕方無い。成人は、素早く動く体や、その小さな体に見合わない強い力を失っても、気配を察知する能力は鋭いままだった。安全な場所で寝るときは、自分の意思で深く眠ることができていたようだが、それも頭の手術をしてからは以前のようにできなくなったらしい。生松は、脳の働きとして、それで正しい、と言っていたので、より人間らしくなってきたのだろう。
だが、浅い眠りの時に不用意に近付くと起こしてしまうので、注意が必要だ。
そっと成人の布団に近付く。派手なぞうの絵柄の布団の中で、穏やかな寝息を立てていた。赤璃にもらった大きなくまのぬいぐるみと向かい合って寝ている。思わず離してしまいたくなるが、夜は俺と一緒に寝るのだからと我慢した。
赤璃のやつ、ずいぶんと丁度良い物を買ってきやがったな。
手触りもいいし大きいので、成人が遊び場で抱きついて寝てしまっていることも良くあった。荘重が布団に移動させようと抱き上げると起きてしまうこともあり、そのままおかしな体勢で寝ていたり、寝足りなかったりということが多かったけれど。
成人の布団を置いた日。昼ごはんの後に布団に入った時は興奮して、寝るどころではなかった。寝転がった布団を手で触ってうっとりして、枕の絵柄を見たくて頭から外して持ち上げて。
枕に絵柄は無い方がいいんじゃないのか?と言ったが、生松は、
「自分の目印というのは必要なんですよ」
と、言うし、水瀬には、
「あった方がいいに決まってるでしょう」
と、何言ってんだこいつは?という顔で見られる始末。
結局、布団に寝転がっただけで寝なかった成人は、夜ご飯を食べて風呂に入る頃には船を漕ぎ始めていた。午後はほとんど布団に寝転がっていただけだが、興奮して疲れたらしい。
風呂上がり、悩んだ末にうとうとしている体を成人の布団に下ろそうとしたが離れない。いくら成人の体が小さめだからといって一人用の布団に俺と二人は狭いのだが。まあ、二人用の布団も隣に敷いてあることだし、とその日は成人の布団にそのまま潜り、成人が深く寝入って手を離してから、自分の大きな布団に移った。寝るには時間が早かったので、読書などしてから。
翌朝。ふと目を覚ますと、俺の背中にぎっちりとしがみつく成人がいた。
どうした、と寝ぼけながら聞くと、緋色がいなかった、と拗ねたような声が返ってくる。
「お前の布団、狭い」
「……俺、夜は緋色のお布団で寝る」
「そうか」
「俺のお布団でお昼寝する」
「いいんじゃないか」
「うん」
やっぱりお前の布団いらねえじゃん、と思いながら寝直したが、成人はその日の昼過ぎから、とりあえず布団に入るようになった。はじめのうちは、うまく寝られない日もあったようだが、くまのぬいぐるみを抱えることで決まった時間に寝るようになったらしい。
たまに寝顔を覗きにいっても、起きずに気持ちよく眠っている。
成人の布団を渡したことの効果が分かるのはまだまだ先のことだと生松は言うが、この穏やかな寝息が、渡して良かったと言っているんじゃないだろうか。疲れやすい体は、しっかり昼寝をすることで調子が良いみたいだしな。
可愛い寝顔を堪能して立ち上がる。
さて、俺は仕事に戻るか……。
自分の部屋へ入るというのに、こっそりと扉を開けるのは何とも奇妙な感覚だが仕方無い。成人は、素早く動く体や、その小さな体に見合わない強い力を失っても、気配を察知する能力は鋭いままだった。安全な場所で寝るときは、自分の意思で深く眠ることができていたようだが、それも頭の手術をしてからは以前のようにできなくなったらしい。生松は、脳の働きとして、それで正しい、と言っていたので、より人間らしくなってきたのだろう。
だが、浅い眠りの時に不用意に近付くと起こしてしまうので、注意が必要だ。
そっと成人の布団に近付く。派手なぞうの絵柄の布団の中で、穏やかな寝息を立てていた。赤璃にもらった大きなくまのぬいぐるみと向かい合って寝ている。思わず離してしまいたくなるが、夜は俺と一緒に寝るのだからと我慢した。
赤璃のやつ、ずいぶんと丁度良い物を買ってきやがったな。
手触りもいいし大きいので、成人が遊び場で抱きついて寝てしまっていることも良くあった。荘重が布団に移動させようと抱き上げると起きてしまうこともあり、そのままおかしな体勢で寝ていたり、寝足りなかったりということが多かったけれど。
成人の布団を置いた日。昼ごはんの後に布団に入った時は興奮して、寝るどころではなかった。寝転がった布団を手で触ってうっとりして、枕の絵柄を見たくて頭から外して持ち上げて。
枕に絵柄は無い方がいいんじゃないのか?と言ったが、生松は、
「自分の目印というのは必要なんですよ」
と、言うし、水瀬には、
「あった方がいいに決まってるでしょう」
と、何言ってんだこいつは?という顔で見られる始末。
結局、布団に寝転がっただけで寝なかった成人は、夜ご飯を食べて風呂に入る頃には船を漕ぎ始めていた。午後はほとんど布団に寝転がっていただけだが、興奮して疲れたらしい。
風呂上がり、悩んだ末にうとうとしている体を成人の布団に下ろそうとしたが離れない。いくら成人の体が小さめだからといって一人用の布団に俺と二人は狭いのだが。まあ、二人用の布団も隣に敷いてあることだし、とその日は成人の布団にそのまま潜り、成人が深く寝入って手を離してから、自分の大きな布団に移った。寝るには時間が早かったので、読書などしてから。
翌朝。ふと目を覚ますと、俺の背中にぎっちりとしがみつく成人がいた。
どうした、と寝ぼけながら聞くと、緋色がいなかった、と拗ねたような声が返ってくる。
「お前の布団、狭い」
「……俺、夜は緋色のお布団で寝る」
「そうか」
「俺のお布団でお昼寝する」
「いいんじゃないか」
「うん」
やっぱりお前の布団いらねえじゃん、と思いながら寝直したが、成人はその日の昼過ぎから、とりあえず布団に入るようになった。はじめのうちは、うまく寝られない日もあったようだが、くまのぬいぐるみを抱えることで決まった時間に寝るようになったらしい。
たまに寝顔を覗きにいっても、起きずに気持ちよく眠っている。
成人の布団を渡したことの効果が分かるのはまだまだ先のことだと生松は言うが、この穏やかな寝息が、渡して良かったと言っているんじゃないだろうか。疲れやすい体は、しっかり昼寝をすることで調子が良いみたいだしな。
可愛い寝顔を堪能して立ち上がる。
さて、俺は仕事に戻るか……。
1,513
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした
鳥居之イチ
BL
————————————————————
受:久遠 酵汰《くおん こうた》
攻:金城 桜花《かねしろ おうか》
————————————————————
あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。
その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。
上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。
それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。
お呪いのルールはたったの二つ。
■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。
■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。
つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。
久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、
金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが…
————————————————————
この作品は他サイトでも投稿しております。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる