【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

26 穏やかな寝息  緋色

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 寝た、との報告を受けて、そっと成人なるひとの様子を見に行く。昼の休憩に入る時間を遅らせているから、午後の仕事の入りが遅くとも誰も何も言わない。
 自分の部屋へ入るというのに、こっそりと扉を開けるのは何とも奇妙な感覚だが仕方無い。成人なるひとは、素早く動く体や、その小さな体に見合わない強い力を失っても、気配を察知する能力は鋭いままだった。安全な場所で寝るときは、自分の意思で深く眠ることができていたようだが、それも頭の手術をしてからは以前のようにできなくなったらしい。生松いくまつは、脳の働きとして、それで正しい、と言っていたので、より人間らしくなってきたのだろう。
 だが、浅い眠りの時に不用意に近付くと起こしてしまうので、注意が必要だ。
 そっと成人なるひとの布団に近付く。派手なぞうの絵柄の布団の中で、穏やかな寝息を立てていた。赤璃あかりにもらった大きなくまのぬいぐるみと向かい合って寝ている。思わず離してしまいたくなるが、夜は俺と一緒に寝るのだからと我慢した。
 赤璃あかりのやつ、ずいぶんと丁度良い物を買ってきやがったな。
 手触りもいいし大きいので、成人なるひとが遊び場で抱きついて寝てしまっていることも良くあった。荘重むらしげが布団に移動させようと抱き上げると起きてしまうこともあり、そのままおかしな体勢で寝ていたり、寝足りなかったりということが多かったけれど。
 布団を置いた日。昼ごはんの後に布団に入った時は興奮して、寝るどころではなかった。寝転がった布団を手で触ってうっとりして、枕の絵柄を見たくて頭から外して持ち上げて。
 枕に絵柄は無い方がいいんじゃないのか?と言ったが、生松いくまつは、

「自分の目印というのは必要なんですよ」

 と、言うし、水瀬みなせには、

「あった方がいいに決まってるでしょう」

 と、何言ってんだこいつは?という顔で見られる始末。
 結局、布団に寝転がっただけで寝なかった成人なるひとは、夜ご飯を食べて風呂に入る頃には船を漕ぎ始めていた。午後はほとんど布団に寝転がっていただけだが、興奮して疲れたらしい。
 風呂上がり、悩んだ末にうとうとしている体を成人なるひとの布団に下ろそうとしたが離れない。いくら成人なるひとの体が小さめだからといって一人用の布団に俺と二人は狭いのだが。まあ、二人用の布団も隣に敷いてあることだし、とその日は成人なるひとの布団にそのまま潜り、成人なるひとが深く寝入って手を離してから、自分の大きな布団に移った。寝るには時間が早かったので、読書などしてから。
 翌朝。ふと目を覚ますと、俺の背中にぎっちりとしがみつく成人なるひとがいた。
 どうした、と寝ぼけながら聞くと、緋色ひいろがいなかった、と拗ねたような声が返ってくる。

「お前の布団、狭い」
「……俺、夜は緋色ひいろのお布団で寝る」
「そうか」
「俺のお布団でお昼寝する」
「いいんじゃないか」
「うん」

 やっぱりお前の布団いらねえじゃん、と思いながら寝直したが、成人なるひとはその日の昼過ぎから、とりあえず布団に入るようになった。はじめのうちは、うまく寝られない日もあったようだが、くまのぬいぐるみを抱えることで決まった時間に寝るようになったらしい。
 たまに寝顔を覗きにいっても、起きずに気持ちよく眠っている。
 成人なるひとの布団を渡したことの効果が分かるのはまだまだ先のことだと生松いくまつは言うが、この穏やかな寝息が、渡して良かったと言っているんじゃないだろうか。疲れやすい体は、しっかり昼寝をすることで調子が良いみたいだしな。
 可愛い寝顔を堪能して立ち上がる。
 さて、俺は仕事に戻るか……。
 
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