【完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

20 俺のお布団 3  成人

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 生松いくまつが部屋から出ていって、俺は機嫌の悪い緋色ひいろと二人になった。疲れたみたいにソファに座った緋色ひいろが、じろっと膝に置いた俺を見る。
 分からない。分からないけど、緋色ひいろの機嫌が悪い。
 俺はしおしおと小さくなる。しがみつきたいけど、嫌かな?きゅっと目をつぶって、我慢する。手もぐーにして握る。しがみつくことに慣れすぎた?大丈夫、大丈夫。深呼吸してから、聞いてみよう。

「あ……え?」

 抱え込まれて驚いて目を開けた。でも、緋色ひいろの胸が見えるだけ。ちょっと痛いけど、そのままじっとしておく。緋色ひいろの匂い。好き。……分からなくてごめん。
 
「殿下、少しお話しましょう」

 すぐに生松いくまつが戻ってきたらしい。俺を離さずに立ち上がった緋色ひいろの腕をぽんぽんと叩いたのが分かった。

成人なるひとは、成人なるひとの遊び場で少しお留守番しててください」

 緋色ひいろが、ぎゅうぎゅう抱っこするから何にも見えなかったけど、しばらく間が空いてから、緋色ひいろは何も言わないまま俺を、俺の大事なものがたくさん置いてある俺のお部屋に下ろした。

「すぐ戻りますから、少し遊んで待っててくださいね」

 何だかぼんやりとしたまま、うんうんと頷く。二人が出ていくのを見送って、ぞうの絵本を取り出した。ぞうが、お仕事が上手くいかなくてしょんぼりする絵本。色んなお仕事するたびに失敗して、もうけっこう、って言われて追い出されてしょんぼりするんだ。俺も今、何だかしょんぼりだ。
 でも、ぞうは最後は素敵な仕事を見つけてしょんぼりじゃなくなる。
 良かったな、ぞう。
 俺はまだしょんぼりだ。
 失礼します、と水瀬みなせ鼓与ことの声がして緋色ひいろの部屋に入ってきた。俺の部屋から、そっと覗く。畳や掃除道具を持っている。緋色ひいろの布団の横の絨毯が捲られて、くるくると巻いて運び出された。
 手早く床を掃いて、雑巾で拭いて、畳が二枚置かれる。二人であっという間だ。畳を置いた後の床の大きさを測って、掃除道具を持って出ていった、と思ったら巻いた絨毯が運び込まれて、また部屋に敷かれた。絨毯の上をコロコロと転がしてテープにごみをくっつける掃除道具で掃除して、また出ていく。
 そしてお布団を運んできた。緋色ひいろのお布団より小さい。小さい……!
 俺のかな?
 どきどきしてきた。
 お部屋からこっそり見てるの、二人は気付いてるよな。
 水瀬みなせは、たたんである敷き布団を一人で両手で持って運んできた。お布団はああやって運ぶのか。覚えておこう。両手が無いと運べないかもしれないけど……。
 綺麗に整えて、真っ白なシーツが掛かる。鼓与ことも、掛け布団や枕をいっぺんに抱えて運んできた。タオルケットや掛け布団のカバーに、何か模様が描いてある。気になる。見に行っていいかな。
 そろそろと近寄ると、水瀬みなせがにこっと笑ってこちらを見た。

「できましたよ」

 鼓与ことが枕を、ぽんと置く。薄っぺらい枕。俺の枕だ。体にパズルみたいに線が入って、色んな色で塗られた派手なぞうの絵が描かれたカバーが掛かっている。掛け布団のカバーにも派手なぞうがいる。

「これ、俺の?」
「はい。成人なるひとさまのです」

 俺のお布団……!
 生まれて初めての俺のお布団が、緋色ひいろのお布団の横にある!

「ありがと」
「はい」

 二人は、にこにこしてすぐに出ていった。
 俺は嬉しくて、俺のお布団の横で座って、ふかふかと触ってみたり、半分だけ体を乗せてみたりした。
 絵本のぞうとおんなじみたいに、しょんぼりは何処かにいって、すごくすごく幸せだった。
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