359 / 1,321
第五章 それは日々の話
9 焼きについての考察 1 広末
しおりを挟む
「ただいま!」
「お土産持ってきたー。」
力丸さまとなる坊が、朝からずっと声をかけたそうにしているのは気付いていた。昨日、泊まりの仕事から帰ってきたばかりだから、今日の二人の仕事は休みなんだろう。顔を見合わせてはこちらを伺っている。作ってほしい食べ物があるに違いない。気付いていても、忙しくてなかなかこちらから話しかけてやれないでいるうちに昼を過ぎていた。
二人とも、いつの間にか姿が見えなかったから、皇城にでも行っていたんだろう。なる坊は土産を買うのが好きだから、皇妃殿下や赤璃殿下に土産でも渡しに行っていたに違いない。ちゃんと俺と村次の休憩時間を見計らって来てくれる辺りが、よく見ていてくれるんだな、とちょっと嬉しい。
土産だと差し出された箱は、紙がへろへろになっている。温かい物を入れて、冷めるときに水分を吸ったのだろう。開けてみると、少し潰れた丸い食べ物が並んで、濃い茶色のたれと、しんなりしたかつお節と青のりがかかっていた。酸味のある良い匂いがする。
「たこ焼きって言うんだ。作って」
「焼きは美味しい。作って」
二人同時に喋ったら、聞き取りにくい。
「食欲をそそる匂いですね」
村次が俺の手にある箱に顔を近付けて言う。もともと口数の少ない奴だが、友達二人が同時にいなくて寂しかったんだろ? 今日は朝から、そわそわと二人の姿を目で追っていた。話を聞くのを楽しみにしてたに違いない。もちろん、俺もだ。
「美味しいんだよ。ね?」
「屋台で売ってて、できたては凄く熱いんだよな」
すっかり冷めてしぼんでいるが、とりあえず一つ食べてみるか。
「これは八つ入ってるが、全部、俺と村次で食べていいのか?」
「うーんと、壱臣も」
「壱臣さんは食べてきてないのか」
「うん。俺と力丸と三郎とじいやで食べた」
作り方についての情報が少なそうな気がするな……。
とりあえず、冷めた焼き? たこ焼き? とやらを、刺してある爪楊枝で持ち上げて口に入れる。村次に爪楊枝を渡すと、同じようにすぐ口に放りこんだ。
まわりの生地は口当たりよく、冷めても固くなったりはしていない。味は、匂いを出していたたれがそのまま主張していて美味しい。噛んでいると、アクセントのように紅生姜が出てきて、それも良く馴染んでいた。かつお節や青のりともとても良く合う。真ん中に、弾力のある噛むほど味の出る魚介、たこが入って存在を出していた。
成程、これは。
「旨いな」
「美味しいですね」
俺と村次が言うと、二人がにまっと嬉しそうに笑う。
「温かいと凄く美味しいだろうな」
「蒸気で温めてみますか?」
「生地がしんなりしてしまうが、やってみるか」
俺と村次が話していると、
「もう作れる?」
と、なる坊が聞いてきた。
「いや。作り方は見たのか?」
「うん。白いの入れてたこ入れて、くるくると棒で回す」
「すごいよなあ、あれ。棒一本で真ん丸になるもんなあ」
予想通りだ。
全く映像が浮かんでこねえ……。
「お土産持ってきたー。」
力丸さまとなる坊が、朝からずっと声をかけたそうにしているのは気付いていた。昨日、泊まりの仕事から帰ってきたばかりだから、今日の二人の仕事は休みなんだろう。顔を見合わせてはこちらを伺っている。作ってほしい食べ物があるに違いない。気付いていても、忙しくてなかなかこちらから話しかけてやれないでいるうちに昼を過ぎていた。
二人とも、いつの間にか姿が見えなかったから、皇城にでも行っていたんだろう。なる坊は土産を買うのが好きだから、皇妃殿下や赤璃殿下に土産でも渡しに行っていたに違いない。ちゃんと俺と村次の休憩時間を見計らって来てくれる辺りが、よく見ていてくれるんだな、とちょっと嬉しい。
土産だと差し出された箱は、紙がへろへろになっている。温かい物を入れて、冷めるときに水分を吸ったのだろう。開けてみると、少し潰れた丸い食べ物が並んで、濃い茶色のたれと、しんなりしたかつお節と青のりがかかっていた。酸味のある良い匂いがする。
「たこ焼きって言うんだ。作って」
「焼きは美味しい。作って」
二人同時に喋ったら、聞き取りにくい。
「食欲をそそる匂いですね」
村次が俺の手にある箱に顔を近付けて言う。もともと口数の少ない奴だが、友達二人が同時にいなくて寂しかったんだろ? 今日は朝から、そわそわと二人の姿を目で追っていた。話を聞くのを楽しみにしてたに違いない。もちろん、俺もだ。
「美味しいんだよ。ね?」
「屋台で売ってて、できたては凄く熱いんだよな」
すっかり冷めてしぼんでいるが、とりあえず一つ食べてみるか。
「これは八つ入ってるが、全部、俺と村次で食べていいのか?」
「うーんと、壱臣も」
「壱臣さんは食べてきてないのか」
「うん。俺と力丸と三郎とじいやで食べた」
作り方についての情報が少なそうな気がするな……。
とりあえず、冷めた焼き? たこ焼き? とやらを、刺してある爪楊枝で持ち上げて口に入れる。村次に爪楊枝を渡すと、同じようにすぐ口に放りこんだ。
まわりの生地は口当たりよく、冷めても固くなったりはしていない。味は、匂いを出していたたれがそのまま主張していて美味しい。噛んでいると、アクセントのように紅生姜が出てきて、それも良く馴染んでいた。かつお節や青のりともとても良く合う。真ん中に、弾力のある噛むほど味の出る魚介、たこが入って存在を出していた。
成程、これは。
「旨いな」
「美味しいですね」
俺と村次が言うと、二人がにまっと嬉しそうに笑う。
「温かいと凄く美味しいだろうな」
「蒸気で温めてみますか?」
「生地がしんなりしてしまうが、やってみるか」
俺と村次が話していると、
「もう作れる?」
と、なる坊が聞いてきた。
「いや。作り方は見たのか?」
「うん。白いの入れてたこ入れて、くるくると棒で回す」
「すごいよなあ、あれ。棒一本で真ん丸になるもんなあ」
予想通りだ。
全く映像が浮かんでこねえ……。
527
お気に入りに追加
5,088
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる