【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
347 / 1,321
第四章 西からの迷い人

134 大人の時間 2  緋色

しおりを挟む
八朔はっさくに逆心あり。家門取り潰しの上、一族郎党皆罪人の扱いとし、相応の処分を下す。全ては決定事項である。」

 俺を上座に据えたため、一段下がった場所に座っていた壱鷹いちたかの声には、ただ事実を淡々と告げる響きがあった。
 ざわ、と部屋が揺れる。流石に分かりやすく声を漏らす者はいないが、驚きは隠せない。

「すでに通達済みではあるが、改めて次期当主として弐角にかくを紹介しよう。弐藤にふじに預かってもらっていた我が子である。今後はこの城で暮らす。見知りおきのほど、よろしく頼む。弐角にかくの兄の壱臣いちおみは、料理人として皇国の緋色ひいろ殿下の屋敷にお仕えすることとなったため、城を出る。」

 羽織袴姿の壱鷹いちたかと同列に並んで家臣の方を向いていた、同じく羽織袴姿の弐角にかくと、弐角にかくに借りた背広姿の壱臣いちおみが良く似た顔で軽く頷く。
 その瓜二つな顔に、思わず声の出た者もいるのだろう。ざわめきは更に大きくなった。

「さて、何か異議があれば聞こう。」

 まず声を上げたのは、真ん中に置かれている罪人の一人だった。八朔はっさくの跡取りだった者か。

「然るべき手続きもなく家門取り潰しが決定事項とは、君主の横暴が過ぎまする。この事態こそ九鬼くきは君主足り得ずとのあかし。」
此度こたびの皇都への招待、私が誰を名代みょうだいとすると言うたか覚えておろうか。八朔はっさくの娘とその孫は、ぞろぞろと恥さらしにも大勢の者を連れて皇都を訪れ名代みょうだいを騙り、皇家の方々にまでご迷惑をおかけした。その罪、まことに許しがたし。私は許可を出しておらぬというのに、どのような経緯で九鬼くきの紋の入った車を使用して、九鬼くきの財産を使って旅をしたものか。八朔はっさくの名を冠していた者どもの処遇の決定と共に、その辺りの話を聞かせてもらう故、皆にはしばらく城に滞在してもらいたく思う。」

 家臣の中の幾人かの顔色が悪くなり、きょろきょろと辺りを見回す姿も見られる。不正に関わった心当たりのある者なのだろう。

「恐れながらお尋ねいたします。」
「ふむ。何なりと。」
八朔はっさく当主、与市よいちさまは何処いずこにおわしますか。」
「怪我をして寝込んでおる。」
一昨日おとつい出会った時には非常にお元気な様子でいはりましたが。」
「怪我の経緯を知りたいんか?城においでくだされた緋色ひいろ殿下の前に勝手にまかりこし、自分が城の主だと名乗ったので、不審者として撃たれたんや。」

 尋ねた家臣は息を飲んだ。

「か、勝手に……とは……?」
「私の許可を得ていない全てのことは、勝手であろう。ここは九鬼くきの城であり、治めるは九鬼くき壱鷹いちたかである。名代みょうだいを務められるは、我が子壱臣いちおみ弐角にかくのみ。各々おのおのがた、努々ゆめゆめ忘れるな!」
「は、ははっ。」
「ははあ。」

 幾つかの声が重なり、家臣たちが自然と頭を下げるのが見えた。
 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...