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第四章 西からの迷い人
133 大人の時間 1 緋色
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服を握りしめていた成人の右手がするりと緩む。その瞬間は、いつも少し寂しい。
深く眠ったのだと安堵もするが、俺を掴まえて離さないその手が、俺だけを必要としてくれているようで、とても好きなのだ。
時間が許して、体勢的に本人がしんどくないのなら、起きるまでこうして、腕の中で寝ていてくれて構わないのだが。
滑らかな頬をそっと撫でる。抱え直してから、横で控えている荘重にその体を預けた。軽い体は、寝てしまって動かしにくいはずの時でさえ、簡単に人の手を渡る。起きている時も、成人は荘重の支えを好んでいるしな。
宝物のように大切に成人を抱えた荘重が、一礼して食事場所としていた部屋を出ていく。
さて。
成人を抱えて昼食を摂っていたので、前屈みとなっていた背中を伸ばす。戦闘服に着替えて、仕事をするか。
ずらりと並んだ九鬼家の直参家臣たちが、上座に案内された赤い軍服姿の俺を見て、一斉に包拳礼をとる。羽織袴の集団が物珍しくて、まじまじと眺め回してしまった。属国扱いで自治を任せている西の国々は、まだまだ独自の文化を色濃く残しており、先日まで敵対していた帝国の方が、言葉遣いや服装、髪型などが似通っているような気がして笑ってしまう。元は、あちらと同国であったんだったか……。
手を軽く挙げて、挨拶を受けたことを示しながらそんなことを思う。手を下ろし、顔を上げた者は皆、長い髪を丁寧に結っている。複雑な編みかたをした者もいれば、ただ一つに纏めている者もいるが、飾り紐が髪を彩って、如何に艶やかな整えられた髪が大切なのかを知ることができた。
脇に避けた家臣の真ん中に、八朔家の面々が引き立てられてくる。昨日のままの羽織袴姿と、女も豪華な着物を纏ったままであったが、皆一様に髪をばっつりと肩より上で切られていた。ぼさぼさと乱れた髪が何ともみすぼらしい。
成る程。
壱臣がいつも恥ずかしそうにうつ向いていた理由を、ようやくはっきりと知ることができた気がした。
ざきざきと無造作に切られたあの髪は、この国の者にとって最大の侮辱なのだ。
よくも、うちの大事な料理人を苛めてくれたな。相応の報いは受けてもらおうか。
八朔家の様子にざわめく部屋を、もう一度ぐるりと睨み付けて、一段下の壱鷹の言葉を待った。
深く眠ったのだと安堵もするが、俺を掴まえて離さないその手が、俺だけを必要としてくれているようで、とても好きなのだ。
時間が許して、体勢的に本人がしんどくないのなら、起きるまでこうして、腕の中で寝ていてくれて構わないのだが。
滑らかな頬をそっと撫でる。抱え直してから、横で控えている荘重にその体を預けた。軽い体は、寝てしまって動かしにくいはずの時でさえ、簡単に人の手を渡る。起きている時も、成人は荘重の支えを好んでいるしな。
宝物のように大切に成人を抱えた荘重が、一礼して食事場所としていた部屋を出ていく。
さて。
成人を抱えて昼食を摂っていたので、前屈みとなっていた背中を伸ばす。戦闘服に着替えて、仕事をするか。
ずらりと並んだ九鬼家の直参家臣たちが、上座に案内された赤い軍服姿の俺を見て、一斉に包拳礼をとる。羽織袴の集団が物珍しくて、まじまじと眺め回してしまった。属国扱いで自治を任せている西の国々は、まだまだ独自の文化を色濃く残しており、先日まで敵対していた帝国の方が、言葉遣いや服装、髪型などが似通っているような気がして笑ってしまう。元は、あちらと同国であったんだったか……。
手を軽く挙げて、挨拶を受けたことを示しながらそんなことを思う。手を下ろし、顔を上げた者は皆、長い髪を丁寧に結っている。複雑な編みかたをした者もいれば、ただ一つに纏めている者もいるが、飾り紐が髪を彩って、如何に艶やかな整えられた髪が大切なのかを知ることができた。
脇に避けた家臣の真ん中に、八朔家の面々が引き立てられてくる。昨日のままの羽織袴姿と、女も豪華な着物を纏ったままであったが、皆一様に髪をばっつりと肩より上で切られていた。ぼさぼさと乱れた髪が何ともみすぼらしい。
成る程。
壱臣がいつも恥ずかしそうにうつ向いていた理由を、ようやくはっきりと知ることができた気がした。
ざきざきと無造作に切られたあの髪は、この国の者にとって最大の侮辱なのだ。
よくも、うちの大事な料理人を苛めてくれたな。相応の報いは受けてもらおうか。
八朔家の様子にざわめく部屋を、もう一度ぐるりと睨み付けて、一段下の壱鷹の言葉を待った。
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