人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

131 ねえ、聞いて  成人

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「猿がね。くるっと回って跳んでた。それで、帽子にお金入れて、これもらった。」

 巾着から猿の札を取り出す。
 ふーん、と緋色ひいろが手に取って見てから返してくれるので、大事に巾着にしまう。

「それで、神様にお願い事して、鈴をがらがらして、それから、えーと……。」

 話したいことがありすぎて、口からお話が出るのが追い付かない。
 くっくっくっ、と笑った緋色ひいろがお茶を渡してくれるから、受け取って飲む。
 あ、ちょっと熱い。
 ふーふーするの忘れてた。
 口をつけようとしてから慌てて離し、ふーふーとしていると、ちょっと落ち着いてきた。
 お茶を一口飲んで、ぽてっと緋色ひいろにもたれ掛かる。緋色ひいろの膝の上はいいなあ。横向きに抱っこしてくれると、顔も見えるし、もたれ掛かることもできる。

「こら、寝るな。今から昼飯食うんだぞ。」
「んー。」

 寝てないけど、と思いながら気持ちよさにぼんやりする。だって、ここがいいんだ。どこにいってもここに帰ってくるんだ。
 何だか良い匂いがして、目を上げる。膳を運んできた壱臣いちおみと目が合った。

成人なるひとくん、寝たらあかんよ。」

 ふわ、と笑う壱臣いちおみが何だかいつもと違う。

壱臣いちおみ、きれいね。」
「な、何言うてんの。」

 壱臣いちおみが、びっくりしてから真っ赤になる。ふふ。とてもきれいだ。それに。

「良い匂い。」
「ありがとう。」

 嬉しそうに笑って仕事をしている壱臣いちおみ
 来るときは、皆と一緒にご飯を食べることもできなかったけど、にこにこになって良かったな。

「寝てしまう前に食べておけ。」

 並んでいるご飯を見て思い出した。

「焼きが美味しかった。」
「焼き?」
「そう。えーと、たこ焼き。」
「たこ焼き?お前、たこは食べられないだろ?」
「だからねえ、俺は焼きなの。」

 あれ?緋色ひいろが首を傾げてしまった。

「丸くて、熱くて、おいしい。」
「熱いものを食べられたのか?……全然分からんな。」

 緋色ひいろ壱臣いちおみを呼び止める。

壱臣いちおみ。たこ焼きとは何だ?」
「たこ焼き……ですか?」
「知らんか?」
「すみません。知らん食べ物です。」
「ええ!そんな……。」
 
 壱臣いちおみに作ってもらおうと思ってたのに……。

「そんなに旨かったのか?」

 俺は一生懸命首を縦に振る。あれは、美味しい。焼きでも美味しい。

「更に西の地方のもんやと思います。私も初めて見ましたし、食べました。」

 手伝いで膳を運んできた三郎さぶろうがそっと口を挟む。

「けど、兄上なら知っとるかなと思うてたんですけど。」

 俺も。俺も壱臣いちおみが作ってくれると思ってた。

「他に食べたのは誰だ?」
「私と力丸りきまるでございます。」

 じいやが緋色ひいろの横に、静かに座る。

「……そこへ食べに行かなきゃ分からんな。」
「ええ。私では食べ物のことは何とも。」
「その店主はどんな感じだ?」
「なかなか愉快なお方で。」
「成る程……。まあ、壱臣いちおみが食えば分かるだろ。作っている所は見えるのか?」
「ええ、目の前で焼いております。」
「う、うちは広末ひろすえさんみたいに食べたら作れるわけやな……。」

 壱臣いちおみが何か言っているけど、俺は帰ってからもたこ焼きが食べられそうだと思って、にこにこしてしまった。

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