【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

127 会計の勉強  三郎

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 店の散策は、とても楽しかった。喧嘩していたはずの成人なるひとさまと力丸りきまるさまは、またいつの間にか仲良く手を繋いで歩いている。いつ仲直りしたのか、そもそも喧嘩していたのかも、私にはよう分からへん。
 たこ焼きとやらは、初めて食べた。あれは、売っている店員の訛りも少しきつかったし、ずいぶんと早口やったし、更に西の地方の食べ物なんやないやろか?屋台を引いて、繁盛している辺りを順繰りに回る商売の者もおると聞くし、そういう者が売っていたんやと思う。
 なんぼ私が物知らずでも、さすがにこの辺りの名物を全く知らんことはないんちゃうやろか?……自信はないけど。
 とても美味しかったから、広まっていくと嬉しい。兄上は作ってくれるやろか。
 髪飾りの店は、そこかしこにあってとても興味を引かれた。飾れるほどの髪はないんやけれど。城に持ってきてもろて品物を見るより、店に並んでいるものを見る方が楽しいなと考えてしまう。お勧めされてばかりいると、自分で判断できんようになる。断りにくいし、あんまり好きやないとも言いにくいから、面倒臭なって何でもふんふん頷くばかりになってしまう。更に母上が口を出すもんやから、私は考えることを諦めてしもうてた。
 ただ見るだけでいいから、ゆっくり中を見たいなと思うたけど、仲良く手を繋いだ成人なるひとさまと力丸りきまるさまが、すたすたと通り過ぎるので見失わないように必死に付いていった。
 やっと入った店は、綺麗な、本当に綺麗なお菓子の並ぶお菓子屋さん。
 ほわあ、と可愛らしい声が聞こえて見ると、成人なるひとさまが硝子の入れ物に入った金平糖をうっとりと眺めている。赤い色ばかり入ったいちごと名前のある瓶。八百円は、高いのか安いのか。
 袋に入ったものが三百円やから、瓶が五百円?そんなもんに思えるけれど、三千円しかなければそれを買うと他の物があまり買えなくなる?
 ああ。計算の勉強をしていたときは、気付かなかった。計算とはこのように使うものなのか。これはとても重要な勉強だ。手元にあるお金が少ない時に、買いたいものが買えるのかどうかをしっかり計算しなくてはならない。
 私は今、何のために勉強をするのかの答えをもらっているんやな。
 うっとりと店の中を見る成人なるひとさまを、力丸りきまるさまと荘重むらしげさまが優しく見守っている。いつもそこには、温かい空気が漂っていて、私はそっとその世界を覗いているような心地になる。
 しばらくして力丸りきまるさまが声をかけた。何度目かにやっと返事をした成人なるひとさまは、本当にこういう店がお好きなんやろう。
 ああ、あの美味しくて小さな、丸い飴も置いてある。白手鞠しろてまりと言うんか。あれは、食べさせてもろたことがある。誰がくれたんやったか。小さな頃に、誰かが手に乗せてくれて、口に入れると美味しくて笑ったら、頭を撫でられて……。
 そんなことを考えていたら、袖を引かれた。成人なるひとさま?会計所に行くんかな?
 何でか私を引っ張っていくので、付いていく。
 成人なるひとさまが、右肘に引っかけた籠を会計所の卓に置いた。

「お会計ですか?」

 聞かれて頷き、巾着を取り出す。

「お土産用に、包んでください。これとこれを一包みにして三つです。」

 緊張した声と面持ち。
 店員の、はい、との返事を聞いて、ほっと息を吐いた。

「こちらは?」

 あ、苺の名前の金平糖、瓶入りを買うたんや。

「自分のです。」

 と笑う顔が可愛らしい。こちらもお包みしますね、と言われて、ぱっと顔が輝いた。

「二千九百円です。」

 頷いた成人なるひとさまが、ちらとこちらを向いて、巾着からお金を取り出す。三千円出して、百円のお釣りをもらうと、またこちらを向いた。
 ああ。会計の勉強。

「ありがとうございます。」

 笑ってそう言うと、満足げに頷いてくれて、私も何だか嬉しかった。

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