340 / 1,321
第四章 西からの迷い人
127 会計の勉強 三郎
しおりを挟む
店の散策は、とても楽しかった。喧嘩していたはずの成人さまと力丸さまは、またいつの間にか仲良く手を繋いで歩いている。いつ仲直りしたのか、そもそも喧嘩していたのかも、私にはよう分からへん。
たこ焼きとやらは、初めて食べた。あれは、売っている店員の訛りも少しきつかったし、ずいぶんと早口やったし、更に西の地方の食べ物なんやないやろか?屋台を引いて、繁盛している辺りを順繰りに回る商売の者もおると聞くし、そういう者が売っていたんやと思う。
なんぼ私が物知らずでも、さすがにこの辺りの名物を全く知らんことはないんちゃうやろか?……自信はないけど。
とても美味しかったから、広まっていくと嬉しい。兄上は作ってくれるやろか。
髪飾りの店は、そこかしこにあってとても興味を引かれた。飾れるほどの髪はないんやけれど。城に持ってきてもろて品物を見るより、店に並んでいるものを見る方が楽しいなと考えてしまう。お勧めされてばかりいると、自分で判断できんようになる。断りにくいし、あんまり好きやないとも言いにくいから、面倒臭なって何でもふんふん頷くばかりになってしまう。更に母上が口を出すもんやから、私は考えることを諦めてしもうてた。
ただ見るだけでいいから、ゆっくり中を見たいなと思うたけど、仲良く手を繋いだ成人さまと力丸さまが、すたすたと通り過ぎるので見失わないように必死に付いていった。
やっと入った店は、綺麗な、本当に綺麗なお菓子の並ぶお菓子屋さん。
ほわあ、と可愛らしい声が聞こえて見ると、成人さまが硝子の入れ物に入った金平糖をうっとりと眺めている。赤い色ばかり入った苺と名前のある瓶。八百円は、高いのか安いのか。
袋に入ったものが三百円やから、瓶が五百円?そんなもんに思えるけれど、三千円しかなければそれを買うと他の物があまり買えなくなる?
ああ。計算の勉強をしていたときは、気付かなかった。計算とはこのように使うものなのか。これはとても重要な勉強だ。手元にあるお金が少ない時に、買いたいものが買えるのかどうかをしっかり計算しなくてはならない。
私は今、何のために勉強をするのかの答えをもらっているんやな。
うっとりと店の中を見る成人さまを、力丸さまと荘重さまが優しく見守っている。いつもそこには、温かい空気が漂っていて、私はそっとその世界を覗いているような心地になる。
しばらくして力丸さまが声をかけた。何度目かにやっと返事をした成人さまは、本当にこういう店がお好きなんやろう。
ああ、あの美味しくて小さな、丸い飴も置いてある。白手鞠と言うんか。あれは、食べさせてもろたことがある。誰がくれたんやったか。小さな頃に、誰かが手に乗せてくれて、口に入れると美味しくて笑ったら、頭を撫でられて……。
そんなことを考えていたら、袖を引かれた。成人さま?会計所に行くんかな?
何でか私を引っ張っていくので、付いていく。
成人さまが、右肘に引っかけた籠を会計所の卓に置いた。
「お会計ですか?」
聞かれて頷き、巾着を取り出す。
「お土産用に、包んでください。これとこれを一包みにして三つです。」
緊張した声と面持ち。
店員の、はい、との返事を聞いて、ほっと息を吐いた。
「こちらは?」
あ、苺の名前の金平糖、瓶入りを買うたんや。
「自分のです。」
と笑う顔が可愛らしい。こちらもお包みしますね、と言われて、ぱっと顔が輝いた。
「二千九百円です。」
頷いた成人さまが、ちらとこちらを向いて、巾着からお金を取り出す。三千円出して、百円のお釣りをもらうと、またこちらを向いた。
ああ。会計の勉強。
「ありがとうございます。」
笑ってそう言うと、満足げに頷いてくれて、私も何だか嬉しかった。
たこ焼きとやらは、初めて食べた。あれは、売っている店員の訛りも少しきつかったし、ずいぶんと早口やったし、更に西の地方の食べ物なんやないやろか?屋台を引いて、繁盛している辺りを順繰りに回る商売の者もおると聞くし、そういう者が売っていたんやと思う。
なんぼ私が物知らずでも、さすがにこの辺りの名物を全く知らんことはないんちゃうやろか?……自信はないけど。
とても美味しかったから、広まっていくと嬉しい。兄上は作ってくれるやろか。
髪飾りの店は、そこかしこにあってとても興味を引かれた。飾れるほどの髪はないんやけれど。城に持ってきてもろて品物を見るより、店に並んでいるものを見る方が楽しいなと考えてしまう。お勧めされてばかりいると、自分で判断できんようになる。断りにくいし、あんまり好きやないとも言いにくいから、面倒臭なって何でもふんふん頷くばかりになってしまう。更に母上が口を出すもんやから、私は考えることを諦めてしもうてた。
ただ見るだけでいいから、ゆっくり中を見たいなと思うたけど、仲良く手を繋いだ成人さまと力丸さまが、すたすたと通り過ぎるので見失わないように必死に付いていった。
やっと入った店は、綺麗な、本当に綺麗なお菓子の並ぶお菓子屋さん。
ほわあ、と可愛らしい声が聞こえて見ると、成人さまが硝子の入れ物に入った金平糖をうっとりと眺めている。赤い色ばかり入った苺と名前のある瓶。八百円は、高いのか安いのか。
袋に入ったものが三百円やから、瓶が五百円?そんなもんに思えるけれど、三千円しかなければそれを買うと他の物があまり買えなくなる?
ああ。計算の勉強をしていたときは、気付かなかった。計算とはこのように使うものなのか。これはとても重要な勉強だ。手元にあるお金が少ない時に、買いたいものが買えるのかどうかをしっかり計算しなくてはならない。
私は今、何のために勉強をするのかの答えをもらっているんやな。
うっとりと店の中を見る成人さまを、力丸さまと荘重さまが優しく見守っている。いつもそこには、温かい空気が漂っていて、私はそっとその世界を覗いているような心地になる。
しばらくして力丸さまが声をかけた。何度目かにやっと返事をした成人さまは、本当にこういう店がお好きなんやろう。
ああ、あの美味しくて小さな、丸い飴も置いてある。白手鞠と言うんか。あれは、食べさせてもろたことがある。誰がくれたんやったか。小さな頃に、誰かが手に乗せてくれて、口に入れると美味しくて笑ったら、頭を撫でられて……。
そんなことを考えていたら、袖を引かれた。成人さま?会計所に行くんかな?
何でか私を引っ張っていくので、付いていく。
成人さまが、右肘に引っかけた籠を会計所の卓に置いた。
「お会計ですか?」
聞かれて頷き、巾着を取り出す。
「お土産用に、包んでください。これとこれを一包みにして三つです。」
緊張した声と面持ち。
店員の、はい、との返事を聞いて、ほっと息を吐いた。
「こちらは?」
あ、苺の名前の金平糖、瓶入りを買うたんや。
「自分のです。」
と笑う顔が可愛らしい。こちらもお包みしますね、と言われて、ぱっと顔が輝いた。
「二千九百円です。」
頷いた成人さまが、ちらとこちらを向いて、巾着からお金を取り出す。三千円出して、百円のお釣りをもらうと、またこちらを向いた。
ああ。会計の勉強。
「ありがとうございます。」
笑ってそう言うと、満足げに頷いてくれて、私も何だか嬉しかった。
541
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる