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第四章 西からの迷い人
124 宝物 三郎
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どうやら、成人さまの知っていることは少ないらしい。幼子のように、何を聞いても初めて聞くような顔をしていて、それを力丸さまも荘重さまも分かっていて、どう説明してあげようかと考えている風に見える。
成人さまが、対象をじっと観察しているときには邪魔をしないように見守っている。お二人ともが、成人さまを本当に大切に思っているんやということが分かる、とても優しい顔で。
そんなに大切に思っているくせに力丸さまは、すぐにからかうようなことを言ったり、笑ったりしては喧嘩になっている。なんで大事な人にそんなこと言うんやろ、とはらはらする。現に今も、手を繋いでもらえなくなっている。
私は、力丸さまに繋いでもらって嬉しいけれど。
少ししたら、二人とも何も無かったかのようにまた、仲良く話しだすのだから分からない。
いつ仲直りしたのか、そもそも本当に喧嘩していたのか。私にできるのは、はらはらと見ているだけで。
御守りをじっとみていた成人さまは、これなに?と尋ねもせず、一つ手に持った後で買わずに置いた。
「あるからいらない。」
と言って一つしかない手をじっと見つめている。御守り代わりの何かがそこに?と見てみれば、緋色の石の指輪が光っていた。きっと大切なものなんやろう。
一文無しの私は、買い物はできんので大人しく横で待つ。
「三郎はいらないのか?」
「あ、はい。その……。お金がありませんので。」
「貸してやるから、欲しいものがあれば言えよ。ああ、お前にも成人みたいに渡しておくか。」
力丸さまが財布から千円札を幾つか出そうとするので、慌てて止めた。
「ほんまに、いるものなんてありませんので、その……。」
私の御守りは、先ほど貰った猿の札だ。それもまた、借りた百円で手に入れたものだけれど。
私には何にも無い。何にも無いけれど、お金が無いから手に入れることもできない。神様にお願いをする五円さえ。
私は何にも知らない子どもや。
欲しいものさえ分からない。お金を貸してもろても、何にも買えないことやろう。
「勉強だからな。持っとけ。買い物の仕方を勉強しなくちゃ、これから生きていけないだろ?」
それでも力丸さまは私を見捨てず、巾着に入れたお金を渡してきた。巾着は、御守り売り場で買ったらしい。
「貸すだけだ。仕事したら給料が出るから返せよ。」
三千円入った巾着を受け取り、大きく頷く。力丸さまの優しげな目元が笑顔の形なので、本気で返せと言ってるわけではないのやろうけれど。
「巾着のお代も払います。」
「それはプレゼントだ。」
「いえ。」
「げー。お前も頑固?ま、いいや。分かった。つけとく。よし、買い食いと土産物屋に行くぞー。」
巾着の中にはお金と共に、厄除と書いた御守りも入っていた。え?と力丸さまを見ると、ぱちんと片目をつぶって、言う。
「それは本当に贈り物。お前に一番必要そうだから。」
その仕草を格好いいと思いながら、何だか胸が温かくなって涙が浮かびそうで顔を逸らした。
「ありがとうございます。」
空っぽの私の、宝物が早くも三つ。
成人さまが、対象をじっと観察しているときには邪魔をしないように見守っている。お二人ともが、成人さまを本当に大切に思っているんやということが分かる、とても優しい顔で。
そんなに大切に思っているくせに力丸さまは、すぐにからかうようなことを言ったり、笑ったりしては喧嘩になっている。なんで大事な人にそんなこと言うんやろ、とはらはらする。現に今も、手を繋いでもらえなくなっている。
私は、力丸さまに繋いでもらって嬉しいけれど。
少ししたら、二人とも何も無かったかのようにまた、仲良く話しだすのだから分からない。
いつ仲直りしたのか、そもそも本当に喧嘩していたのか。私にできるのは、はらはらと見ているだけで。
御守りをじっとみていた成人さまは、これなに?と尋ねもせず、一つ手に持った後で買わずに置いた。
「あるからいらない。」
と言って一つしかない手をじっと見つめている。御守り代わりの何かがそこに?と見てみれば、緋色の石の指輪が光っていた。きっと大切なものなんやろう。
一文無しの私は、買い物はできんので大人しく横で待つ。
「三郎はいらないのか?」
「あ、はい。その……。お金がありませんので。」
「貸してやるから、欲しいものがあれば言えよ。ああ、お前にも成人みたいに渡しておくか。」
力丸さまが財布から千円札を幾つか出そうとするので、慌てて止めた。
「ほんまに、いるものなんてありませんので、その……。」
私の御守りは、先ほど貰った猿の札だ。それもまた、借りた百円で手に入れたものだけれど。
私には何にも無い。何にも無いけれど、お金が無いから手に入れることもできない。神様にお願いをする五円さえ。
私は何にも知らない子どもや。
欲しいものさえ分からない。お金を貸してもろても、何にも買えないことやろう。
「勉強だからな。持っとけ。買い物の仕方を勉強しなくちゃ、これから生きていけないだろ?」
それでも力丸さまは私を見捨てず、巾着に入れたお金を渡してきた。巾着は、御守り売り場で買ったらしい。
「貸すだけだ。仕事したら給料が出るから返せよ。」
三千円入った巾着を受け取り、大きく頷く。力丸さまの優しげな目元が笑顔の形なので、本気で返せと言ってるわけではないのやろうけれど。
「巾着のお代も払います。」
「それはプレゼントだ。」
「いえ。」
「げー。お前も頑固?ま、いいや。分かった。つけとく。よし、買い食いと土産物屋に行くぞー。」
巾着の中にはお金と共に、厄除と書いた御守りも入っていた。え?と力丸さまを見ると、ぱちんと片目をつぶって、言う。
「それは本当に贈り物。お前に一番必要そうだから。」
その仕草を格好いいと思いながら、何だか胸が温かくなって涙が浮かびそうで顔を逸らした。
「ありがとうございます。」
空っぽの私の、宝物が早くも三つ。
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