【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
331 / 1,321
第四章 西からの迷い人

118 祭りの賑わい  力丸

しおりを挟む
「さて、どこに行くかなー。」

 うきうきしながら車に戻ると、成人なるひとがぐったりと座席に寝転んでいた。膝枕をした荘重むらしげさまが優しく背中を擦っている。

「おお。大丈夫か。」
「くさかった……。」

 顔の前で、何かを払うような仕草をしているから、まだ匂いがまとわりついているような気がするんだろう。分かる。俺も、あれは苦手だ。

「慣れないよなあ。殿下は何か買う気だけど、あの匂いが離宮に漂うのは嫌だなあ。」
「んー。でも、弐角にかくはいい匂い。」
「そうか。まあ、殿下がお前の嫌なことするわけないし、いいか。それより、遊んできていいって。どこ行く?」
「え?遊ぶ?」
「そう、俺らだけで遊んできていいって。」
「ええ?じゃあ、じゃあ、お土産!」
「おお、いいな。お土産買うか!三郎さぶろう、どっかいいとこ……って知らないか。」

 運転席に座りながら聞くと、三郎さぶろうが申し訳なさそうに体を縮めている。なかなか、慣れてくれないなあ。まあ、仕方ない。
 成人なるひとが体を起こして伸びをし、荘重むらしげさまが腰に下げていた鞄から地図を取り出して広げた。

「え?え?そ、その地図は、持ち出し禁止の……。」
「いえいえ、まさか。」
「え?そやけど……。」

 地図を見た三郎さぶろうが驚いているが、荘重むらしげさまはけろりと返事をした。
 うん。何となく分かっちゃったぞ。じい様、城から持ち出し禁止の地図を持ってきたんだな。
 荘重むらしげさまが地図を手に助手席に移動して案内してくれたのは、とても賑やかな、屋台や店屋が並ぶ場所だった。

「お祭りでもやってるのか?」

 そのくらいの賑わいだ。

「いえいえ。有名なおやしろがあるので、各地からの参拝客が絶えず、常にこのような賑わいを見せておるようですよ。」
「うわあ、凄い。」

 成人なるひとも大喜びだし、いいとこだな。

「私が年に一度お詣りするときは、こんなに人はおりませんでした。」
「人払いしてあったんでしょうな。」
「ああ……。」

 三郎さぶろうが賑わいに呆然としている。お前は、自分の領地なのに知らないことだらけだな。身分の高い者は買い物に行く習慣が無いというのは、考えものだ。殿下方のように、お忍びで出掛けまくるのもどうかと思うけど。

「おやしろって何?」

 ここにも、三郎さぶろうの先輩面して何にも知らないやつが一人。

「神様の居るとこだよ。」
「へええ、ここに居るの?」
「うーん。いや、居るわけじゃないけど。」
「んー?いないのに、お祈りするの?」
「いや、いないわけでもない。」
「ええ?どっち?」
「どっちだろ?たまに居るんじゃないか?」
「いないかもしれないけど、お祈りするの?」

 ずっと首を傾げながら聞かれると、俺まで首を傾げてしまう。

「人は弱いですから、神様に祈って許しを乞うたり、幸せを願ったりするんですよ。偶像を置いて神様の代わりにして祈るんです。」

 荘重むらしげさまの言葉に、ふーん、と言った成人なるひとはもう、興味を失ったようで屋台に目を向けていた。
 神様は知ってるんだな、なんて思う。神様って何?って聞くかと思ったんだけど違ったな。成人なるひとの神様は、どんな神様なんだろう。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...