【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

111 店屋へ行こう  成人

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「買い物に行きたい。三郎さぶろう、案内を頼めるか?」

 無事に出来上がった朝ご飯を食べながら、緋色ひいろが言った。俺たちが朝食を作っている間に、壱鷹いちたか弐藤にふじ弐角にかくと難しい話をしていたらしい。もう終わった?

「買い物、ですか?」
「ああ。午後からは会議だから、昼飯までに回れるとこで頼む。」

 ああ。難しい話の続きはお昼からなんだね。今日もお泊まりするのかな。そういえばパンツが二枚、鞄に入ってたかも。

「あの。買い物、は、使いを出して店の者を城に呼んでしますんで、今からやと昼頃に来ることになるんちゃうやろか、と思うんですが……。」
「え?店に行けばいいだろ?」
「あ、私……はその、店へ出かけたことがなく……。」
「え?」
「え?」

 えええええ?!と周りで聞いてた何人かの声が響いた。俺もびっくりしちゃったよ。三郎さぶろう、お店でお買い物したことないの?お菓子屋さんも見たことない?飴とかラムネとかいっぱいいっぱい置いてある、大きな宝箱みたいなあれを見てないの?

「衝撃だ。」
「ほんまか。」

 九鬼くきの人たちも驚いている。

「離宮で、着替えとか買いに行けって言われんかった?」
「あ、はい。言われました。お城に、店の人が来たら見せてもらおうと思てました。」
「お金の計算は分かる?」
「支払いやらしたことはありませんけど、計算はできます。」

 壱臣いちおみが聞くと、三郎さぶろうは少しむっとしたように返事をする。

「……成る程。で、買うときに金はどうするつもりだった?今、一文無しだろう?」
「お金……ですか。そう、ですね。ほんまですね……。お金……。」

 半助はんすけの冷たい声。三郎さぶろうは呆然と呟く。

「そうか。店に行ったことないなら、これが欲しいって言って終わりか。」
「あ、まあ、はい。欲しいとも言ってないような……?」

 力丸りきまるに言われると、首を傾げている。欲しくて買ったもの無いの?俺なんて、欲しいものいっぱいあるよ。お金と相談して、みんなの誕生日プレゼント考えたり、宝箱みたいな駄菓子屋さんに行って眺めたり、楽しいよ!
 お買い物、楽しみだなあ。

「あ!」
「なんだ?」
「俺、お財布持ってきてない。」

 いつもの鞄も持ってきてなーい。お買い物ができないじゃん。

「買ってやるけど?」

 緋色ひいろはいつもそう言うけど。

「俺のは俺が買うの。」
「あー、じゃあ、あれだ。貸してやる。」
「うん。」
「じゃあ、まあ、三郎さぶろうの勉強も兼ねて、弐角にかくが案内しろ。」
「えーと、実は俺もあんまり店に足を運んだことは無いです。」
「はあ?」
「全く無いわけやないですよ、もちろん。」

 弐角にかくが慌てている。

「でも、身分の高いもんは家に商人を呼ぶいうのが、この辺りでは普通で。」
「そういうもんか?」
「殿下が、気軽に出かけすぎなんじゃないですか?皇宮にも商人は来てたでしょ。まあ、服とかは皇族のは専門の部署が作ってますしね。」
壱臣いちおみは、店に行ったりは……。」
「国を出てからですね。ここで出歩くなんて自殺行為やし、お金無かったですし。」
「仕方ない。適当に、店の立ち並ぶ辺りに連れていってくれ。髪の美容液と、この辺りの調味料を仕入れて帰りたい。気に入ったなら、定期的に皇都でも買えるように交渉したいしな。壱臣いちおみのいいと思うものを選べよ。」

 壱臣いちおみの顔が、ぱっと明るくなった。

「美容液は、自分で買えますよ。だって、うちはもうお給料もろてますからね。」
「俺が買うてやる。」
「なんで?ええよ。」
「美容液は、贈るもんやから。」

 半助はんすけが小さな声で言うと、壱臣いちおみの顔が赤くなった。
 ん?何かあるの?
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