【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

110 朝ごはんを作ろう  成人

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 壱鷹いちたかのお城のお風呂は、木の良い匂いがした。俺にはどうしても熱かったから、結局お湯に浸かれなかったけど、緋色ひいろはとっても気に入って、俺にざばざばと冷ましたお湯を掛けながら、ご機嫌で浸かってた。布団はふかふかで、ぐっすり寝た。

「おはよ。元気か?他所よその布団だけど寝れたか?」

 って力丸りきまるが言うから、

「俺、どこでも寝れるから。」

 と自慢しといた。森のなかとか、寒いけど枯れ葉があれば軟らかいし、建物の床より良いよね。車の荷台でも、嫌な気配さえ感じなければ、目を閉じて機能を強制的に閉じていけば寝れるんだよ!

「何か、いまいち話が噛み合ってない気がするけど、元気ならまあ、いいか。」

 まあいいか。
 俺たちは朝食作りを手伝いながら笑い合う。
 壱臣いちおみが、やっぱりうちの人の分は自分で全部作るって言うから、お手伝いすることにした。俺は特に、片手でできることはあんまり無いけど、今から使うお皿とかも一回洗うって言うので、棚から運んできて、力丸りきまるが洗い終わって三郎さぶろうが拭いたのを、また棚に戻してる。賄い用の厨房は、朝からばたばたと忙しい。
 水瀬みなせ鼓与ことが、壱臣いちおみの指示ですごい勢いで野菜を切ったり、みそ汁を作ったり米を炊いたりしている。鼓与ことも、普段は水瀬みなせと一緒に離宮で洗濯や掃除をしてる一ノ瀬いちのせだ。四月から来たばかりで俺より年が下なのに、しっかりしてるんだ。料理も上手なんだなあ。昨日も忙しそうだった。
 壱臣いちおみは鮭の焼き加減を見ながら、大きな厨房の方へも様子を見に行く。大きな厨房に、昨日、捕らえた人たちと城で働く使用人たちのご飯を任せているらしい。鮭の前で見張りを頼まれた半助はんすけが嫌そうな顔をするけど、そこから動いて鮭が焦げすぎたらいけないので、一緒に行けない。
 半助はんすけはずっと、ここへ来ることも反対してたし、来てからも早く帰りたがっている。感情を隠すことが得意な半助はんすけの気持ちがこんなに分かるなんて、だいぶ嫌なんだろうなあ。
 わざと分かるようにしてるのかな。
 でも、壱臣いちおみが嫌がって無いから我慢してるんだよね。
 壱臣いちおみは父とか弟と過ごせたのは嬉しそう。でも、ここの人たちのことを全然信用してなくて、食べ物とかは全部、こうやって自分で作ってるから大忙し。
 皿を洗い終わった力丸りきまるが、大きな厨房に足を向ける。一人で向かった壱臣いちおみが心配なんだよね。分かる。壱臣いちおみって本当に弱いから身を守ることができないし、心配。

力丸りきまる、俺が行く。代われ。」

 半助はんすけが言った。二人は一緒に朱実あけみ殿下の護衛をしてる仲間だから仲良し。

「いいから鮭焼いてろよ。俺が見てきてやるって。」
「代、わ、れ。」
「俺に鮭を焼かせて、上手くいくと思ってんの?」
「いい感じの焼き目が付いたらひっくり返したり、皿に移すだけやろ?いいから、早く代われ。」

 仲良し?
 うーん。俺が行こうか?

「うるさいです!鮭も焼けない役立たずは出てけー。」

 あ、水瀬みなせに怒られた。
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