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第四章 西からの迷い人
87 恐ろしいこと 三郎
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「……ろう。さぶろう?」
体を揺さぶられて、びくりと跳ねた。
え?
ぎし、と首が痛む。
「す、すみません。寝とりました。」
「起こして悪いな。飯を食っとかないと、何があるか分からないから。」
力丸さまが優しくこちらを見ている。本当に申し訳なさそうに。
まさか、寝てしまうやなんて!
ぱん、と頬を叩いて息を吸った。
「そう、気を張るな。っても無理か。お前には辛いよな。」
「いえ。」
真実を知らず、このまま生きていくなど、していい訳がない。何があっても、最後まで見届けたい。
「靴が無ーい。」
「あ。」
「だ、か、ら、一回起こしてから連れていこうと言ったのに!」
「抱いてりゃいいだろ。」
「よその城に伴侶抱いて行くとか、格好悪くないっすか?」
「いや?全然?」
「格好良い方がいいよな?成人。」
「うん。」
「大丈夫だ、俺はいつでも格好いいだろ?」
「うん。」
「成人、そこは首を横に振れ。」
成人さまと緋色殿下、常陸丸さまが気安く話している間に、開いている車のドアの横に跪いた初老の男性が、成人さまの足に随分と可愛らしい絵柄の靴下を履かせた。爪先の赤色が、皇家の証。へちゃりとつぶれたような顔の動物との取り合わせが、違和感を覚える。
「じいや、ありがとー。」
ほんの少し微笑んだじいやは、どこからか靴も取り出して履かせ、紐を結んでいた。もう一度、ありがとうと言った成人さまが車を飛び出し、殿下が後に続く。
「荘重、助かった。」
「いえいえ。」
そう言うと、まばたきの間にじいや……荘重さまの姿が見えなくなった。……恐ろしい。
「俺たちも降りよう。」
力丸さまが手を引いてくれるので、それに甘えて車を降りた。来るときにも使用した、食事も取れる休憩所だ。控え目に九鬼の印を付けた車が一台と、派手に九鬼の印を付けた車が四台並んで停まっている。
「じいじー。」
弐角さまの側に居た体の大きな初老の男性に成人さまが駆け寄り、抱き上げてもらっている。
「成人、起きたか。ご飯を一緒に食べよう。」
「お酒を飲まないように見張っててって、乙羽が言ってた。」
「なんと。姫は厳しいのお。成人はわしの見張りか。」
嬉しそうに笑うじいじというのは、離宮に住む最強の武人。
本当に怖い人は、普段から怖い訳ではないのだと、この四、五日で知った。
なんなら、優しいくらいや。
じいじ……九条利胤さまも、常陸丸さまも力丸さまも。最恐と噂される緋色殿下でさえ、私にはどこが最恐なんか分からない。
分からないのが、恐ろしい。
本当は、恐ろしいのだろう人達に囲まれて、落ち着いた生活を送れているのが、恐ろしい。
体を揺さぶられて、びくりと跳ねた。
え?
ぎし、と首が痛む。
「す、すみません。寝とりました。」
「起こして悪いな。飯を食っとかないと、何があるか分からないから。」
力丸さまが優しくこちらを見ている。本当に申し訳なさそうに。
まさか、寝てしまうやなんて!
ぱん、と頬を叩いて息を吸った。
「そう、気を張るな。っても無理か。お前には辛いよな。」
「いえ。」
真実を知らず、このまま生きていくなど、していい訳がない。何があっても、最後まで見届けたい。
「靴が無ーい。」
「あ。」
「だ、か、ら、一回起こしてから連れていこうと言ったのに!」
「抱いてりゃいいだろ。」
「よその城に伴侶抱いて行くとか、格好悪くないっすか?」
「いや?全然?」
「格好良い方がいいよな?成人。」
「うん。」
「大丈夫だ、俺はいつでも格好いいだろ?」
「うん。」
「成人、そこは首を横に振れ。」
成人さまと緋色殿下、常陸丸さまが気安く話している間に、開いている車のドアの横に跪いた初老の男性が、成人さまの足に随分と可愛らしい絵柄の靴下を履かせた。爪先の赤色が、皇家の証。へちゃりとつぶれたような顔の動物との取り合わせが、違和感を覚える。
「じいや、ありがとー。」
ほんの少し微笑んだじいやは、どこからか靴も取り出して履かせ、紐を結んでいた。もう一度、ありがとうと言った成人さまが車を飛び出し、殿下が後に続く。
「荘重、助かった。」
「いえいえ。」
そう言うと、まばたきの間にじいや……荘重さまの姿が見えなくなった。……恐ろしい。
「俺たちも降りよう。」
力丸さまが手を引いてくれるので、それに甘えて車を降りた。来るときにも使用した、食事も取れる休憩所だ。控え目に九鬼の印を付けた車が一台と、派手に九鬼の印を付けた車が四台並んで停まっている。
「じいじー。」
弐角さまの側に居た体の大きな初老の男性に成人さまが駆け寄り、抱き上げてもらっている。
「成人、起きたか。ご飯を一緒に食べよう。」
「お酒を飲まないように見張っててって、乙羽が言ってた。」
「なんと。姫は厳しいのお。成人はわしの見張りか。」
嬉しそうに笑うじいじというのは、離宮に住む最強の武人。
本当に怖い人は、普段から怖い訳ではないのだと、この四、五日で知った。
なんなら、優しいくらいや。
じいじ……九条利胤さまも、常陸丸さまも力丸さまも。最恐と噂される緋色殿下でさえ、私にはどこが最恐なんか分からない。
分からないのが、恐ろしい。
本当は、恐ろしいのだろう人達に囲まれて、落ち着いた生活を送れているのが、恐ろしい。
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