【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

85 予定外は有り  成人

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 朝、一回起きたと思う。口移しで水をもらって、まだ寝てろって緋色ひいろが言った。
 気持ちいいことした翌日は、無理しない。うんうん、と返事して寝直したような気がする。その時に寝間着を着せてもらって、緋色ひいろももう一回、布団に入ってぎゅっと抱きしめてくれた。
 
「トイレ。」

 目を覚まして、見上げた先にも緋色ひいろがいたから、いつも通り。寝間着じゃなくても、布団じゃなくても、構わない。ただ、トイレが近くに無かった……。

「何、トイレ?すぐか?」
「うん。」
「ちょーっと待て。おい、停まれるとこあるか?」
「げげっ。俺たちだけじゃないから、連絡しないと。」

 ん?何?

「あー、何か店が無いか?うーん、しばらく無いかも?だから、一回起こしてから連れていこうって言ったんですよ。」
「着替えさせても起きなかったんだよ。」
「出かける前の晩に、ナニやってんです?あー、言わなくていいですよ。文句垂れてるだけなんで。ここに、痕付いてるし。」

 運転しながらしゃべって、首もとをとんとんと指差す常陸丸ひたちまる緋色ひいろがべろ、とパーカーの首回りを引っ張った。首もとに赤い痕。

「何?」
「お前の付けたキスマークだろ?」

 ああ。気持ちよすぎて嬉しくて、口に届かなくて首に、ちゅう、と吸い付いたかも?
 うへへ。
 昨日のことを思い出して笑うと、緋色ひいろの顔が近付いてきた。
 ここ、車の中か。
 座席に並んで座ってから、緋色ひいろの膝に頭を置いて寝てるのか。
 ちゅーはする。するけど。

「トイレー。」

 運転席の隣に居たじいやが地図を広げて、常陸丸ひたちまるに指示を出す。幾つか曲がるとぽつんと店があるのが見えた。そこに車を停めてくれて、緋色ひいろが俺を抱き上げる。
 店のトイレに駆け込んで、緋色ひいろがズボンも下ろしてトイレに腰かけさせてくれた。
 ああ、良かったあ。間に合ったあ。
 ほっとしてトイレから出ると、じいやと力丸りきまるが車から離れていて、脇道から歩いてくるのが見えた。常陸丸ひたちまるも降りて、車の脇に立っている。

「一台、潰せました。」
「おお。予定外の行動も、有りだな。」

 力丸の報告に、俺を抱いた緋色ひいろがご機嫌で笑う。

「そういうことにしときます。」

 常陸丸ひたちまるが、呆れたように返事をした。ああ。進路を外れた車を追いかけてきたのがいた?

「連絡は?」
「全ての車に、一ノ瀬うちの手の者を乗せておるので、心配はいりません。予定通りの場所で、合流しましょう。」

 じいやが言って、車に乗り込む。
 車はまた走り出したけど、言っていいかなあ。
 前の席に壱臣いちおみがいる。

「お腹空いた……。」
 

 
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