【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
294 / 1,321
第四章 西からの迷い人

81 三郎  成人

しおりを挟む
力丸りきまる半助はんすけは、私の護衛なんだけどね。」

 朱実あけみ殿下は、溜め息をつく。

「まあ、今回は仕方ない。貸すよ。緋椀ひまり三雲みくもは七条に帰ってもらうから、遠征はちょっと困る。」

 半助はんすけって、いつの間に朱実あけみ殿下の護衛になってたの?
 最近、何か仕事してるな、とは思ってたけど。軍服着てるし。
 でも、犯人を見つけるための囮、とか何とか言ってなかったっけ?ん?
 
おみも……。」

 弐角にかくが、心配そうに呟いた。

「食べ物が成人なるひとの口に合わなかった時に、作れる奴を連れていっとけば安心だろ?」
「また緋色ひいろは、そんな憎まれ口叩いて。」

 朱実あけみ殿下が、くすと笑う。
 使用人が部屋に入って来はじめた。手に、夜ご飯の盆を持っている者は、お客様の前に置いて、頭を下げて、また取りに行く。

「あ……。」
三郎さぶろう、どうかした?」

 盆を手に、困ったように立ち止まる三郎さぶろうに、てきぱきと動いていた乙羽おとわが声をかけた。

一二三ひふみ……。」
 
 弐角にかくさまが驚いた顔で、三郎さぶろうを見る。
 頭に、料理中の壱臣いちおみみたいに布を巻いて使用人の服を着た三郎さぶろうは、うつ向いて、盆を朱実あけみ殿下の前に置いた。
 朱実あけみ殿下が、じっとその顔を見ている。

緋色ひいろの名付けって微妙だよね。」
「あら、成人なるひと、は素敵よ。」
「たま、と成人なるひとの二択でしたけどね。」

 朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまの会話に、盆を持ってきた常陸丸ひたちまるが割り込んだ。

「なる。運が良かったわね……。」
三郎さぶろうは他に候補は無かったのか?」
「本当は三番目だっていうから、一も二も入っててややこしいのを、分かりやすい名前にしたんだろうが。」
「三を入れた何か、もう少しこう、無かったか?」
「……何がおかしいんだよ?」
「いや、そもそも三を入れなくても良くない?行方知れずの人間の偽名なんだから、数字入れない方がいいんじゃない?」
「偽名や無いです。」

 朱実あけみ殿下と緋色ひいろの言い争いに、うつ向いてそこに居た三郎さぶろうが小さな声を挟んだ。

「ん?」
「その……。もうこれが名前です。」
「そう。」
「三を、入れてもろて嬉しかったです。ほんまは、三でも何でもない、どこの馬の骨とも知れん男なんやから。」

 顔を上げた三郎さぶろうは、綺麗な仕草で頭を下げた。
 
「お目汚しを致しました。」
「話は、聞いていた?」
「……?いえ。」
「事の顛末を、見届ける気はある?」
「それは……。」

 三郎さぶろうが言葉を詰まらせた。

「やはり、一二三ひふみも?」

 弐角にかくが不安な声を上げると、緋色ひいろが面倒臭そうに返事をした。

「だーかーら。三郎さぶろうだっつってんだろ?そんなに、俺の付けた名前が変かよ?」

 あはは。
 俺が笑ったら、緋色ひいろが頬っぺたをつまんだ。
 やめてー。

一二三ひふみなんて、もういないんだっての。」
しおりを挟む
感想 2,403

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...