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第四章 西からの迷い人
76 匂い立つ人 成人
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「ご馳走やねえ。」
にこーっと笑って壱臣が言った。お休みだったから、ゆるゆるとした服を着て、前よりもっと、のんびりした感じで……。
ん?
「……いい匂い。」
何だかふんわりといい匂いがして、俺はふんふんと壱臣の匂いを嗅いだ。
壱臣がちょっと赤くなって、え?と言う。
「こらこら、成人。」
村次に抱えられて、壱臣から少し離された。
「あ、あの、今日はお休みやから、その、もうお風呂を先に頂いて、そんで、その……、髪の毛、髪の毛の手入れ用の美容液を、弐角がくれたさかい、その、は、半助がつけて、くれて……。」
赤い顔で、壱臣が言う。嬉しそうに、でも、恥ずかしそうに。
そうかあ、髪の毛がいい匂いなのかな。ぱさぱさしてた壱臣の短い髪が、しっとりしておさまっている。
「良かったですね、壱臣さん。」
村次に言われて、壱臣はますます真っ赤になった。
壱臣の国では、髪の毛を伸ばして手入れするのは大事って言ってたもんね?
嬉しいなら、良かったなあ。
「あー、それでな。」
広末が、夜ご飯をお皿に分けていきながら口を挟む。
「朱実殿下と赤璃さまが、これとうちらの飯を交換しろっつうから乗ったんだけど、良かったか?」
「もちろんです。こんなご馳走食べたことないから、嬉しいわあ。」
「…………。そうか。俺もだ。この前、旅行に行ってこれに近い物は食べたが、こんな完全な形の会席料理は初めてだ。楽しみだな。」
ご馳走を食べたことない、と喜ぶ壱臣はやっぱり何だか、ほわほわといい感じ。もう一回匂いを……。
「成人、いるか?」
「あ、殿下。ちょうど良かった。夜ご飯並べるんで、成人を連れてってください。」
村次が、俺を緋色にひょいと渡す。
そうだ。まだ見せてなかった。
「がおっ。」
緋色にしがみついて、吠える。
「…………。」
あれ?
緋色が俺を少し離して、まじまじと見ている。
くまってがおーって言わないんだっけ?間違ったかな?
首を傾げていたら、黙ったまま抱き上げられた。ぎゅーとしてくれるから、嬉しくてしがみつく。
三人の料理人は、忙しく動き始めた。手伝うことにしたらしい壱臣が、普段着の上にエプロンを付けて、頭に布を巻く。ああ、髪の毛隠れちゃったな。
残念な気分で見てると、どうした?と緋色に聞かれた。
「壱臣が綺麗だから、見てた。」
「あ?」
「殿下。成人は髪の毛の話をしてるんですよ。壱臣さんの髪の、美容液の匂いが気に入ったらしくて。」
村次が手を動かしながら言う。
「へえ?」
緋色は壱臣をまじまじと見て、にやっと笑った。
そのまま、俺を抱いて厨房を出るときに、広末の声が飛んできた。
「殿下。生松先生の所に成人を診せに行ってきてください。飯いらないって言うから。」
にこーっと笑って壱臣が言った。お休みだったから、ゆるゆるとした服を着て、前よりもっと、のんびりした感じで……。
ん?
「……いい匂い。」
何だかふんわりといい匂いがして、俺はふんふんと壱臣の匂いを嗅いだ。
壱臣がちょっと赤くなって、え?と言う。
「こらこら、成人。」
村次に抱えられて、壱臣から少し離された。
「あ、あの、今日はお休みやから、その、もうお風呂を先に頂いて、そんで、その……、髪の毛、髪の毛の手入れ用の美容液を、弐角がくれたさかい、その、は、半助がつけて、くれて……。」
赤い顔で、壱臣が言う。嬉しそうに、でも、恥ずかしそうに。
そうかあ、髪の毛がいい匂いなのかな。ぱさぱさしてた壱臣の短い髪が、しっとりしておさまっている。
「良かったですね、壱臣さん。」
村次に言われて、壱臣はますます真っ赤になった。
壱臣の国では、髪の毛を伸ばして手入れするのは大事って言ってたもんね?
嬉しいなら、良かったなあ。
「あー、それでな。」
広末が、夜ご飯をお皿に分けていきながら口を挟む。
「朱実殿下と赤璃さまが、これとうちらの飯を交換しろっつうから乗ったんだけど、良かったか?」
「もちろんです。こんなご馳走食べたことないから、嬉しいわあ。」
「…………。そうか。俺もだ。この前、旅行に行ってこれに近い物は食べたが、こんな完全な形の会席料理は初めてだ。楽しみだな。」
ご馳走を食べたことない、と喜ぶ壱臣はやっぱり何だか、ほわほわといい感じ。もう一回匂いを……。
「成人、いるか?」
「あ、殿下。ちょうど良かった。夜ご飯並べるんで、成人を連れてってください。」
村次が、俺を緋色にひょいと渡す。
そうだ。まだ見せてなかった。
「がおっ。」
緋色にしがみついて、吠える。
「…………。」
あれ?
緋色が俺を少し離して、まじまじと見ている。
くまってがおーって言わないんだっけ?間違ったかな?
首を傾げていたら、黙ったまま抱き上げられた。ぎゅーとしてくれるから、嬉しくてしがみつく。
三人の料理人は、忙しく動き始めた。手伝うことにしたらしい壱臣が、普段着の上にエプロンを付けて、頭に布を巻く。ああ、髪の毛隠れちゃったな。
残念な気分で見てると、どうした?と緋色に聞かれた。
「壱臣が綺麗だから、見てた。」
「あ?」
「殿下。成人は髪の毛の話をしてるんですよ。壱臣さんの髪の、美容液の匂いが気に入ったらしくて。」
村次が手を動かしながら言う。
「へえ?」
緋色は壱臣をまじまじと見て、にやっと笑った。
そのまま、俺を抱いて厨房を出るときに、広末の声が飛んできた。
「殿下。生松先生の所に成人を診せに行ってきてください。飯いらないって言うから。」
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