287 / 1,321
第四章 西からの迷い人
こぼれ話 衣装部屋より 3
しおりを挟む
その可愛らしい靴下から、もしかして成人さまは可愛いデザインがお好きなのでは、と盛り上がった。
涼乃絵さま自ら緋色殿下を捕まえ、成人さまの好きなものを聞き取りし、パンツや靴下に模様を付けてやってくれ、とのお言葉を頂戴したときには拍手喝采だった。
そう、私たちは退屈していたのだ。
陛下のための重厚なデザインの服、ご病気で主に引きこもってしまわれている王妃陛下には、静かにのんびり過ごせるための服、朱実殿下のための落ち着いたデザインの服、男性方は、主に軍服で過ごされることが多く、緋色殿下など特に、普段着は楽に着られたらいい、といった感じである。せっかく、格好いいのにもったいない……。
華やかな赤璃さまが皇家に加わられて、私たちのデザインにも力が入っていたが、お子さまの衣装を仕立てるまでにはまだ、時間がいる。
そこへ成人さまである。もともと、緋色殿下の大事な方とのことで、殿下の給料からお代を払うから服を仕立ててくれとご注文を頂いていた。服の寸法を測りにいった男の先輩が、愕然として帰って来られた日のことも覚えている。私たちもその並んだ数字に、体つきの想像がつかずに困惑したものだ。こんなに細くては、市販の服は着られまい。その上、戦争で怪我をして、左の腕が肘から先が無くて、左目が開いていないと言う。
はじめのうちは、脱ぎ着させやすい服、寝やすい服、という注文だった。そのうち、傷が癒えたのか、片手でもトイレに行きやすいように、とか自分で脱ぎ着できるように、という注文になった。お出かけできるようになると、目の傷が目立たないように帽子付きの服がいい、とのことでパーカーを重宝されるようになって……。
非公式だが伴侶の扱いでいいと聞いてからは、赤色を模様に入れ始めた。とても喜んでいる、赤が好きらしい、と聞こえてくると嬉しくなる。
お二人でデートもされるようになると、お揃いのデザインの服も作ってみた。なんと緋色殿下が積極的に着用されているらしい、との話にもまた、衣装部は大盛り上がりだった。お揃いの服はやはり、殿下も着られるようにと男性らしいデザインになるので、男の先輩の提案がよく通る。
涼乃絵さまの、黒地に赤白模様の金魚の刺繍の靴下は傑作だと思う。鮮やかに浮かび上がった金魚はとても上品で素敵だった。
成人さまがね、にっこり笑って、ありがとうと仰ってくれたのよ、と涼乃絵さまが嬉しそうに仰って、私たちも嬉しくなった。
次は、動物シリーズのパーカーを是非着て頂きたい。くまが好評なら、垂れ耳うさぎも作りたい。これは流石に緋色殿下とお揃いは無理だけれど。
成人さまのために考えた、片手でも脱ぎ着しやすい服のデザインは、怪我をした軍人のための軍服にも応用してみたら評判となっている。引退した欠損のある元軍人や、病気や怪我で四肢が不自由になった方からも問い合わせが来ているので、事業としてデザインを売り、一般向けにそのデザインを応用した服を売り出す予定となった。
忙しくて、楽しい日々。
このところの頑張りにお給料も上乗せされて、私たちは今、最高に幸せなのだ。
私のデザインしたくま耳パーカーを着た成人さまが、王城に散歩に来てくれた時には、私が作ったのですよ、と声をかけてもいいだろうか?
その日を思い浮かべて、私はまた、楽しくなってしまった。
涼乃絵さま自ら緋色殿下を捕まえ、成人さまの好きなものを聞き取りし、パンツや靴下に模様を付けてやってくれ、とのお言葉を頂戴したときには拍手喝采だった。
そう、私たちは退屈していたのだ。
陛下のための重厚なデザインの服、ご病気で主に引きこもってしまわれている王妃陛下には、静かにのんびり過ごせるための服、朱実殿下のための落ち着いたデザインの服、男性方は、主に軍服で過ごされることが多く、緋色殿下など特に、普段着は楽に着られたらいい、といった感じである。せっかく、格好いいのにもったいない……。
華やかな赤璃さまが皇家に加わられて、私たちのデザインにも力が入っていたが、お子さまの衣装を仕立てるまでにはまだ、時間がいる。
そこへ成人さまである。もともと、緋色殿下の大事な方とのことで、殿下の給料からお代を払うから服を仕立ててくれとご注文を頂いていた。服の寸法を測りにいった男の先輩が、愕然として帰って来られた日のことも覚えている。私たちもその並んだ数字に、体つきの想像がつかずに困惑したものだ。こんなに細くては、市販の服は着られまい。その上、戦争で怪我をして、左の腕が肘から先が無くて、左目が開いていないと言う。
はじめのうちは、脱ぎ着させやすい服、寝やすい服、という注文だった。そのうち、傷が癒えたのか、片手でもトイレに行きやすいように、とか自分で脱ぎ着できるように、という注文になった。お出かけできるようになると、目の傷が目立たないように帽子付きの服がいい、とのことでパーカーを重宝されるようになって……。
非公式だが伴侶の扱いでいいと聞いてからは、赤色を模様に入れ始めた。とても喜んでいる、赤が好きらしい、と聞こえてくると嬉しくなる。
お二人でデートもされるようになると、お揃いのデザインの服も作ってみた。なんと緋色殿下が積極的に着用されているらしい、との話にもまた、衣装部は大盛り上がりだった。お揃いの服はやはり、殿下も着られるようにと男性らしいデザインになるので、男の先輩の提案がよく通る。
涼乃絵さまの、黒地に赤白模様の金魚の刺繍の靴下は傑作だと思う。鮮やかに浮かび上がった金魚はとても上品で素敵だった。
成人さまがね、にっこり笑って、ありがとうと仰ってくれたのよ、と涼乃絵さまが嬉しそうに仰って、私たちも嬉しくなった。
次は、動物シリーズのパーカーを是非着て頂きたい。くまが好評なら、垂れ耳うさぎも作りたい。これは流石に緋色殿下とお揃いは無理だけれど。
成人さまのために考えた、片手でも脱ぎ着しやすい服のデザインは、怪我をした軍人のための軍服にも応用してみたら評判となっている。引退した欠損のある元軍人や、病気や怪我で四肢が不自由になった方からも問い合わせが来ているので、事業としてデザインを売り、一般向けにそのデザインを応用した服を売り出す予定となった。
忙しくて、楽しい日々。
このところの頑張りにお給料も上乗せされて、私たちは今、最高に幸せなのだ。
私のデザインしたくま耳パーカーを着た成人さまが、王城に散歩に来てくれた時には、私が作ったのですよ、と声をかけてもいいだろうか?
その日を思い浮かべて、私はまた、楽しくなってしまった。
547
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる