【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

こぼれ話 衣装部屋より 3

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 その可愛らしい靴下から、もしかして成人なるひとさまは可愛いデザインがお好きなのでは、と盛り上がった。
 涼乃絵すずのえさま自ら緋色ひいろ殿下を捕まえ、成人なるひとさまの好きなものを聞き取りし、パンツや靴下に模様を付けてやってくれ、とのお言葉を頂戴したときには拍手喝采だった。
 そう、私たちは退屈していたのだ。
 陛下のための重厚なデザインの服、ご病気で主に引きこもってしまわれている王妃陛下には、静かにのんびり過ごせるための服、朱実あけみ殿下のための落ち着いたデザインの服、男性方は、主に軍服で過ごされることが多く、緋色ひいろ殿下など特に、普段着は楽に着られたらいい、といった感じである。せっかく、格好いいのにもったいない……。
 華やかな赤璃あかりさまが皇家に加わられて、私たちのデザインにも力が入っていたが、お子さまの衣装を仕立てるまでにはまだ、時間がいる。
 そこへ成人なるひとさまである。もともと、緋色ひいろ殿下の大事な方とのことで、殿下の給料からお代を払うから服を仕立ててくれとご注文を頂いていた。服の寸法を測りにいった男の先輩が、愕然として帰って来られた日のことも覚えている。私たちもその並んだ数字に、体つきの想像がつかずに困惑したものだ。こんなに細くては、市販の服は着られまい。その上、戦争で怪我をして、左の腕が肘から先が無くて、左目が開いていないと言う。
 はじめのうちは、脱ぎ着させやすい服、寝やすい服、という注文だった。そのうち、傷が癒えたのか、片手でもトイレに行きやすいように、とか自分で脱ぎ着できるように、という注文になった。お出かけできるようになると、目の傷が目立たないように帽子付きの服がいい、とのことでパーカーを重宝されるようになって……。
 非公式だが伴侶の扱いでいいと聞いてからは、赤色を模様に入れ始めた。とても喜んでいる、赤が好きらしい、と聞こえてくると嬉しくなる。
 お二人でデートもされるようになると、お揃いのデザインの服も作ってみた。なんと緋色ひいろ殿下が積極的に着用されているらしい、との話にもまた、衣装部は大盛り上がりだった。お揃いの服はやはり、殿下も着られるようにと男性らしいデザインになるので、男の先輩の提案がよく通る。
 涼乃絵すずのえさまの、黒地に赤白模様の金魚の刺繍の靴下は傑作だと思う。鮮やかに浮かび上がった金魚はとても上品で素敵だった。
 成人なるひとさまがね、にっこり笑って、ありがとうと仰ってくれたのよ、と涼乃絵すずのえさまが嬉しそうに仰って、私たちも嬉しくなった。
 次は、動物シリーズのパーカーを是非着て頂きたい。くまが好評なら、垂れ耳うさぎも作りたい。これは流石に緋色ひいろ殿下とお揃いは無理だけれど。
 成人なるひとさまのために考えた、片手でも脱ぎ着しやすい服のデザインは、怪我をした軍人のための軍服にも応用してみたら評判となっている。引退した欠損のある元軍人や、病気や怪我で四肢が不自由になった方からも問い合わせが来ているので、事業としてデザインを売り、一般向けにそのデザインを応用した服を売り出す予定となった。
 忙しくて、楽しい日々。
 このところの頑張りにお給料も上乗せされて、私たちは今、最高に幸せなのだ。
 私のデザインしたくま耳パーカーを着た成人なるひとさまが、王城に散歩に来てくれた時には、私が作ったのですよ、と声をかけてもいいだろうか?
 その日を思い浮かべて、私はまた、楽しくなってしまった。
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