【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

64 食べることは生きること  成人

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「どうした?」
「ん?俺にも、似てる人が居たのかな、と思って。」

 緋色ひいろが、ふっと眉間に皺を寄せた。

「みんな、誰かに似てる。」
「そうか……。」

 緋色ひいろが俺を抱いて椅子に座る。軽く息を吐いている。
 どうかした?

「デザート、食べるんだろ?」
「うん!」

 俺の椅子を茉璃まつりさんに勧めると、朱可しゅかさんが、俺の椅子は?と笑いながら言った。これは、冗談。だって楽しそうだから。きっと、朱可しゅかさんと緋色ひいろは仲良し。
 緋色ひいろがお皿を持ってくれて、俺はきれいなゼリーにスプーンを入れる。
 美味しい!
 
「三条殿、お邪魔致します。お久しぶりですね。」

 どこからか椅子をもらって、朱可しゅかさんが席に着いた。

「七条。」

 ますます赤い顔をしたおじさん、三条さんが唸るように朱可しゅかさんを呼ぶ。

「ずいぶん、お顔が赤くおなりだ。御酒が過ぎるのでは?」
「今、殿下と話をしておった。邪魔をするな。」
「ええ。大きなお声が聞こえておりました。このめでたい席で声を荒げるなどと不粋なことを。」

 朱可しゅかさんは、ゆったりと喋るので、とても聞きやすい。好き。

「はじめまして、お嬢さん。七条茉璃まつりと申します。」

 野花のばなは、話しかけられて縮こまっている。

「あの。三条、三条野花のばなです。」

 頭を下げたのかうつむいたのか分からない様子で、下を向いたまま小さい声を出した。

「こんなお嬢さんがいらっしゃったのね。存じ上げなくて、ごめんなさい。お料理を召し上がっていらっしゃらないようだけれど、体調がよろしくないのかしら?」
「いえ、元気です。大丈夫です。」
「そう?なら召し上がられた方がいいわ。とても美味しかったもの。マナーなんて気にしなくていいのよ。」
「あ、でも……。」
「スプーンなら、ほら、大丈夫。成人なるひとさまも緋色ひいろ殿下のお膝でお召し上がりなのだから、気にしない、気にしない。」

 のんびり夫婦の側はとっても居心地がいい。そして、ゼリーが美味しい。
 野花のばながスプーンを持って、茶碗蒸しの蓋を開けた。何だか目を潤ませながら、食べ始める。美味しい、と吐息のような声が聞こえた。
 良かった。
 ご飯、食べられたね。
 茉璃まつりさんの優しい声が聞こえる。

「人はね、食べたものでできているのだから。ちゃんと食べなきゃ。」

 そうか。
 この食べたものたちが、体を作って、元気を作ってくれている。
 ゼリーを食べながら、うんうんと納得していると、耳元でくくっと緋色ひいろが笑った音がした。

「たくさん食って大きくなれ。」

 もちろん、そのつもり!
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