274 / 1,321
第四章 西からの迷い人
64 食べることは生きること 成人
しおりを挟む
「どうした?」
「ん?俺にも、似てる人が居たのかな、と思って。」
緋色が、ふっと眉間に皺を寄せた。
「みんな、誰かに似てる。」
「そうか……。」
緋色が俺を抱いて椅子に座る。軽く息を吐いている。
どうかした?
「デザート、食べるんだろ?」
「うん!」
俺の椅子を茉璃さんに勧めると、朱可さんが、俺の椅子は?と笑いながら言った。これは、冗談。だって楽しそうだから。きっと、朱可さんと緋色は仲良し。
緋色がお皿を持ってくれて、俺はきれいなゼリーにスプーンを入れる。
美味しい!
「三条殿、お邪魔致します。お久しぶりですね。」
どこからか椅子をもらって、朱可さんが席に着いた。
「七条。」
ますます赤い顔をしたおじさん、三条さんが唸るように朱可さんを呼ぶ。
「ずいぶん、お顔が赤くおなりだ。御酒が過ぎるのでは?」
「今、殿下と話をしておった。邪魔をするな。」
「ええ。大きなお声が聞こえておりました。このめでたい席で声を荒げるなどと不粋なことを。」
朱可さんは、ゆったりと喋るので、とても聞きやすい。好き。
「はじめまして、お嬢さん。七条茉璃と申します。」
野花は、話しかけられて縮こまっている。
「あの。三条、三条野花です。」
頭を下げたのかうつむいたのか分からない様子で、下を向いたまま小さい声を出した。
「こんなお嬢さんがいらっしゃったのね。存じ上げなくて、ごめんなさい。お料理を召し上がっていらっしゃらないようだけれど、体調がよろしくないのかしら?」
「いえ、元気です。大丈夫です。」
「そう?なら召し上がられた方がいいわ。とても美味しかったもの。マナーなんて気にしなくていいのよ。」
「あ、でも……。」
「スプーンなら、ほら、大丈夫。成人さまも緋色殿下のお膝でお召し上がりなのだから、気にしない、気にしない。」
のんびり夫婦の側はとっても居心地がいい。そして、ゼリーが美味しい。
野花がスプーンを持って、茶碗蒸しの蓋を開けた。何だか目を潤ませながら、食べ始める。美味しい、と吐息のような声が聞こえた。
良かった。
ご飯、食べられたね。
茉璃さんの優しい声が聞こえる。
「人はね、食べたものでできているのだから。ちゃんと食べなきゃ。」
そうか。
この食べたものたちが、体を作って、元気を作ってくれている。
ゼリーを食べながら、うんうんと納得していると、耳元でくくっと緋色が笑った音がした。
「たくさん食って大きくなれ。」
もちろん、そのつもり!
「ん?俺にも、似てる人が居たのかな、と思って。」
緋色が、ふっと眉間に皺を寄せた。
「みんな、誰かに似てる。」
「そうか……。」
緋色が俺を抱いて椅子に座る。軽く息を吐いている。
どうかした?
「デザート、食べるんだろ?」
「うん!」
俺の椅子を茉璃さんに勧めると、朱可さんが、俺の椅子は?と笑いながら言った。これは、冗談。だって楽しそうだから。きっと、朱可さんと緋色は仲良し。
緋色がお皿を持ってくれて、俺はきれいなゼリーにスプーンを入れる。
美味しい!
「三条殿、お邪魔致します。お久しぶりですね。」
どこからか椅子をもらって、朱可さんが席に着いた。
「七条。」
ますます赤い顔をしたおじさん、三条さんが唸るように朱可さんを呼ぶ。
「ずいぶん、お顔が赤くおなりだ。御酒が過ぎるのでは?」
「今、殿下と話をしておった。邪魔をするな。」
「ええ。大きなお声が聞こえておりました。このめでたい席で声を荒げるなどと不粋なことを。」
朱可さんは、ゆったりと喋るので、とても聞きやすい。好き。
「はじめまして、お嬢さん。七条茉璃と申します。」
野花は、話しかけられて縮こまっている。
「あの。三条、三条野花です。」
頭を下げたのかうつむいたのか分からない様子で、下を向いたまま小さい声を出した。
「こんなお嬢さんがいらっしゃったのね。存じ上げなくて、ごめんなさい。お料理を召し上がっていらっしゃらないようだけれど、体調がよろしくないのかしら?」
「いえ、元気です。大丈夫です。」
「そう?なら召し上がられた方がいいわ。とても美味しかったもの。マナーなんて気にしなくていいのよ。」
「あ、でも……。」
「スプーンなら、ほら、大丈夫。成人さまも緋色殿下のお膝でお召し上がりなのだから、気にしない、気にしない。」
のんびり夫婦の側はとっても居心地がいい。そして、ゼリーが美味しい。
野花がスプーンを持って、茶碗蒸しの蓋を開けた。何だか目を潤ませながら、食べ始める。美味しい、と吐息のような声が聞こえた。
良かった。
ご飯、食べられたね。
茉璃さんの優しい声が聞こえる。
「人はね、食べたものでできているのだから。ちゃんと食べなきゃ。」
そうか。
この食べたものたちが、体を作って、元気を作ってくれている。
ゼリーを食べながら、うんうんと納得していると、耳元でくくっと緋色が笑った音がした。
「たくさん食って大きくなれ。」
もちろん、そのつもり!
562
お気に入りに追加
5,083
あなたにおすすめの小説
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる