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第四章 西からの迷い人
47 最後の晩餐 3 一二三
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「殿下、おかえりなさい。」
先ほど私たちを案内してくれた美しい使用人の声が聞こえて、離宮がばたばたと音を立て始めた。
「緋色!帰ってきた!」
緋色殿下が帰ってきたらしい。
成人さまは、嬉しそうに立ち上がった。少し、びくりと肩を揺らしたら、申し訳なさそうにこちらを見た。
「あのね、座ってて。お茶出すね。ご飯まだだから。」
そう言うと出入り口へ向かって歩き出す。母と私たちの護衛がそこを塞ぐように立っている。
「あの、中に入って座ってて。」
退けて、とは言わずに優しく母に声をかける成人さまを睨むようにして、母はそこから動かない。
「お客様がいらしてます。」
「おう、早いな。留守居ご苦労。」
「いえ、今日はなるが頑張ってるのよ。」
「そうか。」
そんな会話が近付いてくる。開いたままの引き戸に赤い軍服が見えて、母が振り返って膝を付き、左拳を右手で包み持ち上げた。護衛二人も膝を付いて包拳礼を取る。私も姿勢を正して同じ礼を取った。いつの間にか私の斜め前で弐角も綺麗な礼をしている。私たちと母に挟まれた成人さまが困ったように立ち尽くしていたが、動くことはできなかった。
「九鬼弐角がご挨拶申し上げます。この度は晩餐にお招き頂き、恐悦至極にございます。」
挨拶と共に顔を上げたらしい弐角へ、緋色殿下の声がかかる。
「よく来たな。うわ、同じ顔じゃないか。常陸丸、見ろ。」
殿下の後ろで黒い軍服が動き、部屋を覗くのが見えた。
礼の姿勢を保ったまま、目を少しだけ上げてみれば、力丸と良く似た男が、驚いた顔で弐角を見ている。兄か……。力丸より少し大きな体格、落ち着いた顔立ち。先ほどの成人さまの話にも出てきていた。常陸丸と力丸よりおんなじ、と。
「育ちが違ってもこんなに似るんだな。俺の知ってる双子はここまで似てなかったが。」
「俺らの同級生は、少し顔が違いましたね。似てはいましたけど。」
「これなら、何の証もいるものか。弐角、壱臣には会ったか?」
「はい。兄に会わせて頂き、ありがとうございました。」
知らなかったのは、私たちだけ。殿下も、壱臣と弐角が双子の兄弟であることをご存知だったことを示すやり取りを、ただ茫然と聞いていた。
「ずいぶん、かしこまった服で来たのだな。」
声がこちらへ向けてかけられ、慌てて挨拶をする。
「九鬼一二三がご挨拶申し上げます。晩餐にお招き頂き、ありがとうございます。」
恐る恐る顔を上げると、薄茶色の瞳がこちらを見ていた。見慣れた黒より薄い色が、何かを見透かすようで落ち着かない。
「ふーむ、成る程?」
「え?」
「いや、何でもない。一二三とは変わった名だな。九鬼は生まれ順に数字を一つ名に入れると聞いたが。」
「は、あ……、その、私には……?」
名を付けられた私には分からないことなので、曖昧に返事をする。
「失礼致します。九鬼綾女がご挨拶申し上げます。その名は、この子こそが生まれ順に関係なく、唯一の九鬼の跡取りであると宣言致したものでございます。」
父の二番目の子だと思っていたら本当は三番目だったようだし、一二三で三番で正しいのかも、なんて少しのんびりしたことを考えていたら、母がとんでもないことを言う。もはや、三番目ですらないような気がしているのに。
「言うのは勝手だからな。ところで九鬼綾女とやら。そこを退けてくれないか。成人が俺を迎えに来られなくて困っている。」
先ほど私たちを案内してくれた美しい使用人の声が聞こえて、離宮がばたばたと音を立て始めた。
「緋色!帰ってきた!」
緋色殿下が帰ってきたらしい。
成人さまは、嬉しそうに立ち上がった。少し、びくりと肩を揺らしたら、申し訳なさそうにこちらを見た。
「あのね、座ってて。お茶出すね。ご飯まだだから。」
そう言うと出入り口へ向かって歩き出す。母と私たちの護衛がそこを塞ぐように立っている。
「あの、中に入って座ってて。」
退けて、とは言わずに優しく母に声をかける成人さまを睨むようにして、母はそこから動かない。
「お客様がいらしてます。」
「おう、早いな。留守居ご苦労。」
「いえ、今日はなるが頑張ってるのよ。」
「そうか。」
そんな会話が近付いてくる。開いたままの引き戸に赤い軍服が見えて、母が振り返って膝を付き、左拳を右手で包み持ち上げた。護衛二人も膝を付いて包拳礼を取る。私も姿勢を正して同じ礼を取った。いつの間にか私の斜め前で弐角も綺麗な礼をしている。私たちと母に挟まれた成人さまが困ったように立ち尽くしていたが、動くことはできなかった。
「九鬼弐角がご挨拶申し上げます。この度は晩餐にお招き頂き、恐悦至極にございます。」
挨拶と共に顔を上げたらしい弐角へ、緋色殿下の声がかかる。
「よく来たな。うわ、同じ顔じゃないか。常陸丸、見ろ。」
殿下の後ろで黒い軍服が動き、部屋を覗くのが見えた。
礼の姿勢を保ったまま、目を少しだけ上げてみれば、力丸と良く似た男が、驚いた顔で弐角を見ている。兄か……。力丸より少し大きな体格、落ち着いた顔立ち。先ほどの成人さまの話にも出てきていた。常陸丸と力丸よりおんなじ、と。
「育ちが違ってもこんなに似るんだな。俺の知ってる双子はここまで似てなかったが。」
「俺らの同級生は、少し顔が違いましたね。似てはいましたけど。」
「これなら、何の証もいるものか。弐角、壱臣には会ったか?」
「はい。兄に会わせて頂き、ありがとうございました。」
知らなかったのは、私たちだけ。殿下も、壱臣と弐角が双子の兄弟であることをご存知だったことを示すやり取りを、ただ茫然と聞いていた。
「ずいぶん、かしこまった服で来たのだな。」
声がこちらへ向けてかけられ、慌てて挨拶をする。
「九鬼一二三がご挨拶申し上げます。晩餐にお招き頂き、ありがとうございます。」
恐る恐る顔を上げると、薄茶色の瞳がこちらを見ていた。見慣れた黒より薄い色が、何かを見透かすようで落ち着かない。
「ふーむ、成る程?」
「え?」
「いや、何でもない。一二三とは変わった名だな。九鬼は生まれ順に数字を一つ名に入れると聞いたが。」
「は、あ……、その、私には……?」
名を付けられた私には分からないことなので、曖昧に返事をする。
「失礼致します。九鬼綾女がご挨拶申し上げます。その名は、この子こそが生まれ順に関係なく、唯一の九鬼の跡取りであると宣言致したものでございます。」
父の二番目の子だと思っていたら本当は三番目だったようだし、一二三で三番で正しいのかも、なんて少しのんびりしたことを考えていたら、母がとんでもないことを言う。もはや、三番目ですらないような気がしているのに。
「言うのは勝手だからな。ところで九鬼綾女とやら。そこを退けてくれないか。成人が俺を迎えに来られなくて困っている。」
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