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第四章 西からの迷い人
45 最後の晩餐 1 一二三
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「髪の毛違うねえ。弐角長い。」
「ああ。俺たちの国は身分の高い者は、髪の毛を伸ばすんや。手入れする金と時間がありますよっていうのを分かりやすく見せるために。」
「ふーん。壱臣は伸ばさないの?」
「うちは、金も時間も無かったさかい。何とか伸ばしてても、すぐにうちの髪の毛に取れないよう粘つくもんをくっ付ける奴がおって。全部剃らなあかんくなった日は悲しかったなあ。」
「短いの、似合う。」
「…………そう?」
「半助は、また伸ばす?」
粘ついたものをくっ付けられた。髪の毛を全部剃った。双子の話の後から、不穏な会話は続く。それに……。
半助。半助もいるのか。また、ということは、今は短いのか。
私の足は自然と動いて賑やかな部屋へ向かっていた。
「一二三さん、お待ちなさい。」
母の声にも振り返らず、畳の部屋へと足を踏み入れる。座卓の和室には幾人かが座って話していた。一つだけ置いてある背もたれの高い座椅子に座った子の周りに集まっている。座卓に背を向けて、円座になっていた。
「あれ?またお客様だ。こんにちは。」
座椅子の男の子がぺこりと座ったまま頭を下げた。そこにいる者が皆、こちらを向く。使用人の服の上に料理人の白衣を着ている、少し癖のある短髪の男と、白いシャツにモスグリーンのジャケットを羽織り、濃い茶色のスラックスを履いた、癖のある髪を綺麗に整えて一つで結わえた男は、並んでいると本当によく似ていた。細い目は小さい訳ではなく、細面にちょうどよくおさまり、涼やかな顔をしている。それは、父にも叔父にもよく似ていた。九鬼の顔立ち。
私には無いもの。
料理人の横で胡座をかいているのは、半助だ。赤い縁取りのある軍服を着て、左手で料理人の髪を愛しそうに撫でていた。その長かった髪は短くなり、くくった先から小さな髪束がちょこんと飛び出している。こちらを見るときの身動ぎで揺れたのは、中身のない右の袖。
「一二三殿、ご挨拶を。緋色殿下のご伴侶の成人さまだ。」
私がただ呆然と立っていると、弐角から声が上がった。そう、そうだ。まずは、ご挨拶を……。
その場に膝をついて、包拳礼を取る。
しかし、母の甲高い声がまた、場の空気を引き裂いた。
「弐角。そなたの策謀には乗らぬ。一二三さん、お立ちなさい。緋色殿下の伴侶がそんな少年であるわけないやろ。恥をかかせる算段やとして、もう少しましな嘘をつきゃれ!」
「ああ。俺たちの国は身分の高い者は、髪の毛を伸ばすんや。手入れする金と時間がありますよっていうのを分かりやすく見せるために。」
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「短いの、似合う。」
「…………そう?」
「半助は、また伸ばす?」
粘ついたものをくっ付けられた。髪の毛を全部剃った。双子の話の後から、不穏な会話は続く。それに……。
半助。半助もいるのか。また、ということは、今は短いのか。
私の足は自然と動いて賑やかな部屋へ向かっていた。
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「あれ?またお客様だ。こんにちは。」
座椅子の男の子がぺこりと座ったまま頭を下げた。そこにいる者が皆、こちらを向く。使用人の服の上に料理人の白衣を着ている、少し癖のある短髪の男と、白いシャツにモスグリーンのジャケットを羽織り、濃い茶色のスラックスを履いた、癖のある髪を綺麗に整えて一つで結わえた男は、並んでいると本当によく似ていた。細い目は小さい訳ではなく、細面にちょうどよくおさまり、涼やかな顔をしている。それは、父にも叔父にもよく似ていた。九鬼の顔立ち。
私には無いもの。
料理人の横で胡座をかいているのは、半助だ。赤い縁取りのある軍服を着て、左手で料理人の髪を愛しそうに撫でていた。その長かった髪は短くなり、くくった先から小さな髪束がちょこんと飛び出している。こちらを見るときの身動ぎで揺れたのは、中身のない右の袖。
「一二三殿、ご挨拶を。緋色殿下のご伴侶の成人さまだ。」
私がただ呆然と立っていると、弐角から声が上がった。そう、そうだ。まずは、ご挨拶を……。
その場に膝をついて、包拳礼を取る。
しかし、母の甲高い声がまた、場の空気を引き裂いた。
「弐角。そなたの策謀には乗らぬ。一二三さん、お立ちなさい。緋色殿下の伴侶がそんな少年であるわけないやろ。恥をかかせる算段やとして、もう少しましな嘘をつきゃれ!」
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