【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
251 / 1,321
第四章 西からの迷い人

41 九鬼を継ぐもの 1  一二三

しおりを挟む
 皇城の晩餐会に招かれた。
 招待状が届いたときは、母の言う通り何も問題など無かったのだと、少し安堵した。私は、当主から正式に指名されて皇都へと赴いた訳ではなかったからだ。
 第二皇子の結婚式へ出席するにあたり、父が名代みょうだいとして指名したのは従兄の弐角にかくだった。次期当主の指名はまだ行われていないが、人々が集まる大きな行事に名代として送る人物が、当主の意中の者であると誰もが認識するだろう。
 何故、私ではないのか。
 息子ではなく、自身の弟の第二子を指名するなんて。
 父が、いつまでも次期当主の指名をしないのは、兄がいるからだと言われてきた。腹違いの兄。出来損ないだと聞いている。公式な場に姿を現したことはほとんどないため、会ったことがあまりない。
 あれには当主など勤まらない。次期当主は一二三ひふみさましかあり得ない、と周りの者は皆そう言った。期待に応えようと、頑張ったつもりだ。言われるままに勉強して、剣の腕を磨いた。母も母方のお祖父様も、いつも褒めてくれている。
 しかし、しっかりと勉強して高校を卒業したというのに、父は城での仕事を与えてはくれなかった。
 しばらくして、兄が、次期当主指名を辞退して城を出たとの噂を聞いた。
 今度こそ、父は私を呼ぶだろう、と思ったのに、叔父の屋敷に入り浸り、弐角にかくに執務の手解きをしている、と聞こえてきた。
 これは一体、どういうことなのだろう。
 父は、自身より有能な息子に権力を奪われるのを恐れているのだと、母やお祖父様、城に残る家臣はそうやって私に言い聞かせてくれる。
 そうなのだろうか。
 領内は平和で、学校に通っていた頃に聞こえた話では、父はとても民に慕われていた。母やお祖父様の伝えてくる話とずいぶん違う。更に、私があまりにも父に似ていないことで、血筋を疑う声も耳に入る。ほとんど会ったことがない兄や、従兄の弐角にかくは父にそっくりなのだとも。
 何もすることができずに取り残された城で、母は言った。

御方おかたさまが城へお戻りにならないのでしたら、貴方が当主として振る舞えば良いのです。」

 そんな馬鹿な、と思ったが、城の家臣たちは私を当主として扱い始めた。
 そういうものなのだろうか。
 確かに、領地を治めるための城はここであるのに当主が不在なのだから、誰かが名代をせねばならないだろう。それは、自分しかいないように思われた。
 当主の息子として育ってきたのだから。
 そして、何をするのが当主なのかも分からぬまま、城に参内する家臣の挨拶を受けて過ごしている時に、唐突に帰城した父が、赤虎せきとらさまの結婚式へは弐角にかくを名代として送る、と家臣たちへ向けて通達した。
 式は、まだまだ先であるが、参列の有無を聞くふみが届いたため正式な返事を送る、とのことだった。
 少数で赴く予定だが、手土産や祝いの品の準備があるため、早めの手配をしてくれ、との指示が幾人かの家臣に下り、あっという間に通達の儀は終わってしまった。
 指示を受けた家臣は、素早く下がっていくし、父もすぐに大広間から下がっていこうとしている。
 下がっていった家臣たちに見覚えは無かった。普段、城へ参内していない者たちなのだろうか。私へ挨拶をしていない者。
 いや、そんなことより。

「お待ちください、父上。」

 私は、必死で父に呼び掛けた。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...