【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

22 ばかな人  成人

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 おやつの準備をしてくるよ、と広末ひろすえも立ち上がった。

「うちも…。」

 と立ち上がろうとする壱臣いちおみの肩をぽんと叩いて座らせながら広末ひろすえは出ていった。
 客間には、項垂れた壱臣いちおみと俺と緋色ひいろ

「で?半助はんすけをどうする?」
「……体が、動くようになったら、国に、帰し、て。」
「へえ?国の奴にやられたのに?怪我でろくろく動けないのを帰すのか。」
「…………。」
「見捨てるのか。」
「ちゃいます!うちと一緒におったら半助はんすけが死んでまう…から」
「はあ?」

 吐き捨てた言葉。緋色ひいろが怒っている。ものすごく怒ってる。

「お前は今、誰のもんだ?」
「あ、え?え……。」
「どこに居るんだ?」
「あ。」

 壱臣いちおみが、はっとした顔をした。

「うちは離宮の、離宮の料理人です。」
「それが分かってて、命が危険だと?」
「あ……。」
「この俺が、俺の物に手を出す奴を見逃すとでも?」

 ああ、と壱臣いちおみが上げた声の感情は、俺には分からなかった。
 緋色ひいろが俺を抱いて立ち上がる。

「部屋に戻る。馬鹿馬鹿しい。」
半助はんすけは、もう役に立てないから壱臣いちおみと会わなくていいって。」

 客間を出る前に伝えた俺の言葉に、壱臣いちおみは弾かれるように立ち上がった。

「そんな!役になんて立てても立てなくてもええ!」

 ああ。
 やっぱり。
 
壱臣いちおみは何で会わないの?」
「なん、で……。」
「ばーか。」

 緋色ひいろは、一言言うとちゃっちゃと客間を出て扉を閉めた。

「ばかなの?」
「馬鹿だろ。」
「何で?」
「一番大切なものを分かってないから。」

 そっか。
 俺はやっと色々分かって、にこにこしてしまう。
 緋色ひいろのちゅーが額に触れる。早くお部屋に帰ろう。そして、お口にちゅーしよ。
 

 
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