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第四章 西からの迷い人
9 新しい住人 成人
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だし巻き玉子の食堂の人は、九鬼壱臣という名前で、調理師免許も持っている。離宮は、調理師免許が無いと厨房へ入っては駄目って決まりはないから問題ないんだけど、免許を持ってるってだけで何かすごい。
王城の厨房は、調理師免許がないと入れない決まりだから、食材の納入業者が離宮に届けるものと王城に届けるものを間違えた時に、忙しい広末しか交換しに行けないから困っていたらしい。
村次も、十八歳になったらすぐに免許を取れるように修行してるけど、まだあと一年あるもんね。
俺たちは、店の味付けもだし巻き玉子もとても気に入ったから、色んな人に話して手土産に買ってきて渡して店の宣伝をしたのだけど、やっぱりあまり客は入らないままだった。
誰よりも店に顔を出していた村次が、
「店を維持できんくなったから、店をたたんでどこかに働きに出る」
と壱臣が言うのを聞いて、うちで仕事したらどうかと誘った。広末がなかなか休みを取れないから、もう一人調理師を雇えないかと話が出ていたのだ。
「お城なんて、聞いてへん。」
力丸が迎えの車を出して、俺も一緒に乗って行ったら、門をくぐる所で壱臣が騒ぎ出した。名字はあるけどあまり使いたくない、と言うので名前で呼んでいる。
「お城じゃないよ。違う方だよ。」
って離宮に案内したけど、
「そないに変わらへん。え?力丸くんと成人くんって何者?うち、不敬罪で捕まったりせえへん?」
「……九鬼さまが何を言ってるんですか。実家は城じゃないの?」
「この名字が分かるような子たちやと思わへんかったから名乗ったのに。家なんてとうに出とるやん。今のうちを見たら分かるやろ。」
「だから、今まで何も言わなかったじゃないですか。騒がないでくださいよ。住み込みで料理の仕事ができて、味付けも今までのまま作っても文句の出ない夢のような職場ですよ。」
力丸と入り口の前でぎゃあぎゃあ騒いでる。
もー、俺にも分かるように話して。そして、今日の夜ご飯にだし巻き玉子作ってね。
やっと覚悟を決めて厨房へ入った壱臣は、何度か会ったことのある広末と村次と顔を合わせてほっとして、言葉を交わして落ち着いた。
すぐに昼ごはんやおやつ作りの手伝いもして、離宮の管理人の村正に挨拶して部屋ももらう。
俺は、心配だからずっと付いて見てたけど、すぐに皆と仲良くなって楽しそうにしてたから良かった。
「緋色が帰ってきたら、会いに来てね。お部屋にいるから。」
そう言って、夜ご飯作りの前に別れて部屋に戻ろうとしたら、は?と声が聞こえた。
「中に入ったらすっかり忘れてたけど、ここ離宮やんな。緋色って、まさかここは緋色殿下の宮?」
「うん。」
「あかんて。皇族に挨拶とか、嘘やろ。」
「大丈夫。緋色はだし巻き玉子、気に入ってたから。」
「うち、何でこんなことになってんねやろ?」
聞いてた広末がぼそっと呟いた。
「俺もそれ、ずっと思ってるから一緒だな。気が合いそう。」
王城の厨房は、調理師免許がないと入れない決まりだから、食材の納入業者が離宮に届けるものと王城に届けるものを間違えた時に、忙しい広末しか交換しに行けないから困っていたらしい。
村次も、十八歳になったらすぐに免許を取れるように修行してるけど、まだあと一年あるもんね。
俺たちは、店の味付けもだし巻き玉子もとても気に入ったから、色んな人に話して手土産に買ってきて渡して店の宣伝をしたのだけど、やっぱりあまり客は入らないままだった。
誰よりも店に顔を出していた村次が、
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「お城なんて、聞いてへん。」
力丸が迎えの車を出して、俺も一緒に乗って行ったら、門をくぐる所で壱臣が騒ぎ出した。名字はあるけどあまり使いたくない、と言うので名前で呼んでいる。
「お城じゃないよ。違う方だよ。」
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「この名字が分かるような子たちやと思わへんかったから名乗ったのに。家なんてとうに出とるやん。今のうちを見たら分かるやろ。」
「だから、今まで何も言わなかったじゃないですか。騒がないでくださいよ。住み込みで料理の仕事ができて、味付けも今までのまま作っても文句の出ない夢のような職場ですよ。」
力丸と入り口の前でぎゃあぎゃあ騒いでる。
もー、俺にも分かるように話して。そして、今日の夜ご飯にだし巻き玉子作ってね。
やっと覚悟を決めて厨房へ入った壱臣は、何度か会ったことのある広末と村次と顔を合わせてほっとして、言葉を交わして落ち着いた。
すぐに昼ごはんやおやつ作りの手伝いもして、離宮の管理人の村正に挨拶して部屋ももらう。
俺は、心配だからずっと付いて見てたけど、すぐに皆と仲良くなって楽しそうにしてたから良かった。
「緋色が帰ってきたら、会いに来てね。お部屋にいるから。」
そう言って、夜ご飯作りの前に別れて部屋に戻ろうとしたら、は?と声が聞こえた。
「中に入ったらすっかり忘れてたけど、ここ離宮やんな。緋色って、まさかここは緋色殿下の宮?」
「うん。」
「あかんて。皇族に挨拶とか、嘘やろ。」
「大丈夫。緋色はだし巻き玉子、気に入ってたから。」
「うち、何でこんなことになってんねやろ?」
聞いてた広末がぼそっと呟いた。
「俺もそれ、ずっと思ってるから一緒だな。気が合いそう。」
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