【完結】人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

可愛い悩み事  緋色

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 大きなくまのぬいぐるみを抱いて眠る成人なるひとは、今日も穏やかな寝息を立てている。
 雨の日に体調が悪くなるのは折り込み済みだし、夜の発作もほとんど無くなった。
 戦闘や激しい動きは禁止されているが、普通に生活する分には問題なく、生松いくまつも、何でも好きにしたらいい、と言ってくれるくらいになった。
 しんどいときには休むことも覚えて、ちゃんと甘えてくる。いい感じだ。
 新婚旅行はよほど楽しかったらしく、あちこちで勧めて回っているのには笑った。露天風呂の宿には、また連れていってやろう。
 緋椀ひまり三雲みくももあの宿はかなり気に入ったようだし、からかった甲斐があったというもんだ。
 先程まで部屋にいた乙羽おとわに、あの二人はまだ結婚はしてないの、恋人同士なのよ、と教えてもらった成人なるひとは、伴侶と恋人の違いが分からずに悩んでいた。

「だからね、一番好き同士なんだけど、生涯共にいる誓いをしてないの。」
「一番好き同士が誓いをしてないと恋人?してたら、伴侶?」
「そうそう。」
「婚約は何?」
「もうすぐ誓いをしますよって約束した恋人同士かな。」
「ふーん。なんで誓いをしてないの?」
「色々と心の準備がいるのよ。」
「んー?なんで?」
「だって、ずっとよ?生きてる限りずっと一緒にいようって誓うのよ。」
「うん。」
「こう、覚悟とか……。」

 そこまで言ってから乙羽おとわは少し考える。

「……なんですぐに誓わないのかしらね?」
「だよね?」
「……緋椀ひまりくんに聞きに行こう?だって、ずっと一緒でいいよね?」
「ね?」

 緋椀ひまりの答えをぜひ俺にも聞かせてくれ、と思いながら、大笑いした。

「そういえば、婚約なんて言葉、どこで聞いた?」
「お城で、寧子やすこさんって人が、赤虎せきとらと婚約しましたって挨拶してくれた。」

 六条寧子やすこか。

「よろしくお願いしますって言われたけど。」

 珍しく言葉を止める。

「どうした?」
赤虎せきとら嫌いだから、よろしくしないですって言った。」
「ははっ。いいんじゃないか。」

 それで動揺するような女じゃない、気にするな。

「でも、寧子やすこさんは何もしてないのに、よろしくしなかった……から。」
「まあ、そうそう会うこともないし、気にするな。」
「んー、うーん。」

 ぬいぐるみを抱えて唸ってるうちに、うとうととし始めた。
 結局、動物園で小さめのぬいぐるみは買ってこなかった。抱きやすいサイズのぞうを買ってやると言ったのだが、二つ抱けないからいらない、と言われた。そういうもんか?
 乙羽おとわも同じことを言ったらしい。本当に大事な物は一つでいいんだと。
 ま、そういうもんなんだろう。
 様々な感情を覚えて、悩んだりしてるのも、可愛いもんだ。
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