【完結】人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

温泉  成人

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 昼ごはんを食べて、車に乗り込んだ。くまと図鑑は持って行けなくて残念だけど、いつもの肩掛けかばんに財布を入れる。財布の中には大金が入っている。
 旅行。
 お宿にお泊まりして、動物園に行く。そういうのを旅行と言うそうだ。それで、お家で待ってる人にお土産を買ったりしてくるものらしい。
 くま、みたいに。
 お土産を買うために、財布にお札のお金も入れた。毎日仕事をしてるので、最近の俺は結構大金持ち。毎月、色んな人に誕生日プレゼントを買ったり、飴やラムネを買ってもまだお金があるのだ!
 車で、こんなに長く移動したのは初めてだった。あ、もちろん、荷台に乗せられて兵器として移動してたときは、一晩でも二晩でもそこにいたけど。人として車に乗っての移動は、駄菓子屋と雑貨屋しか行かないから、初めて。
 流れていく景色を眺めていたら、あっという間だった。夢中で外を見てたから、何にも喋ったりもしなかったけど、楽しかった。緋色ひいろも、時々俺に触ったり撫でたりするだけで、黙って横に居てくれた。そういうのも、気持ち良かった。
 俺たちの後ろの席に乗ってた乙羽おとわは、車の移動があまり得意じゃないらしく、常陸丸ひたちまるの膝に頭を置いて寝ていた。車の中はとても静かで、でも心地好かった。
 立派なお宿の前には、四人の従業員が待っていて、いらっしゃいませ、と頭を下げた。お店屋さんとおんなじ。俺たちからお泊まりのための着替えが入った荷物を受け取り、部屋へと案内してくれる。
 広い畳の部屋は、俺と緋色ひいろの部屋。乙羽おとわ常陸丸ひたちまるは、隣の部屋に入った。付いてきたじいやや他の何人かも、このお宿のどこかの部屋に入るらしい。運転手さんも。
 いつもの部屋と違う匂いにそわそわする。寝れるかな。昼寝してないし、明日は動物園に行くし、ちゃんと寝ないと。

成人なるひと。お風呂入ろうか。」

 まだ夕食までも時間があるのに?
 緋色ひいろが部屋の戸を開けると、外にお風呂場があった。湯気がもうもうと立ってて熱そう。

「外にお風呂!」

 世の中には、色んなものがあるなあ。
 俺は、すぐに服を脱いだ。お風呂は、好きなんだ。……好きになった。緋色ひいろとなら、いつでも入りたい。できれば、ぬるいのがいい。
 外のお風呂は、いい具合にぬるくて、お湯が白くてとろんとしてた。

「気持ちいいー。」
「温泉は、やっぱり違うな。」

 お湯で、ばしゃっと顔を洗った緋色ひいろが言う。

「温泉?」
「そう、温泉。地下から湧いてる。」
「温かい水が出てるの?地面から?」
「そうそう。そういうのは色んな成分が混じってて、傷を癒してくれたり心を落ち着けてくれたりするんだと。」

 おおー。
 すごいんだな。
 白いもんな、このお湯。
 俺は、半分の左手と酷い傷痕の左の脇腹にお湯を擦り付けた。

「痛いのか?」
「雨の時、痛くないようにつけとくの。」
「そりゃ、いいな。」

 緋色ひいろは、俺を膝の上に乗せて、閉じたままの左の瞼にちゅーをする。嬉しくなって、俺も口にちゅーを返した。

「気持ちいいの、する?」
「そうだなあ。今日は、キスだけ。」

 そう言って、何度も口を合わせてちゅーした。もう気持ちいいけど。

「明日は動物園だからな。歩けないと困るだろ?」

 そうだね!

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