【完結】人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

お土産  緋色

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「それは、置いていけ。」 

 大きな白くまのぬいぐるみは、そんなに重くはないらしいが、持ち歩くサイズではない。
 抱いて寝ていたのは可愛かったが、食事に行くときも持って行こうとしたので止めたら、成人なるひとは珍しく嫌だと言った。

「食事するときに邪魔だろう?」

 大体、それを抱いて階段を降りられるとは思えない。手ぶらでも危なっかしいのだから。
 それでも手離さないのであきらめて、こちらへ寄越せと手を出す。散々迷って、嫌そうにこちらに渡した。持ってやると言ってるのに、何だその顔は?
 やっと食堂に着いたら入り口で、久しぶりに帰ってきた力丸りきまると目が合い、ぶはっと吹き出された。

「で、殿下、ただいま戻りました。ぬいぐるみ、可愛いですね。ぷっ。くくくっ。」
「俺の!」

 力丸りきまるの言葉を聞いた成人なるひとが、慌てて俺の手から白くまを奪っていく。とにかく大きいので、片手で持つのは難しい。バランスを崩しかけた体を抱き止める。
 まったく、もう。
 これは、サイズを間違っているのだ。もっと小さいものにすれば、持ち歩いても危なくないだろうに。
 明日にでも赤璃あかりに抗議しよう、と思ってぬいぐるみを抱えた成人なるひとを支えたまま食堂に入ると、すました顔で赤璃あかりが座っている。

「……お前はここで何をしている?」
緋色ひいろ殿下、久しぶり。ただいま。」
「おかえり。……なんでここに座ってるんだ?」
「家庭料理に飢えているから。」
「は?」
「もうね、行く先行く先で、気合いの入ったご馳走を並べられて、こう、胃が疲れたと言うか、胸やけすると言うか……、分かるでしょ?美味しいんだけど、気分じゃないって言う、あれよ。」
「……で?」
広末ひろすえのご飯が食べたいの。」
「いいのか、朱実あけみは?」
「もうすぐ、来るんじゃない?」

 は?
 自分ちで食べろよ。
 離宮うちは、料理人一人でやってんだぞ。王城そっちは何人もいるんだろ?
 そうだ、そんなことより。
 成人なるひとを専用の座椅子に座らせてから赤璃あかりを睨み付ける。ぬいぐるみを抱えていると予想通り机が見えていない。

「サイズを考えろ。でかすぎだろ?」
「やだ、持ってきちゃったの?可愛い。」
「歩けもしないぞ。」
「こ、こんなに気に入ってもらえるとは思って無かったのよ。ごめん。」

 あっさり謝られると、それ以上文句を言えなくなる。

「それ、食べるときに邪魔になるだろ?部屋に置いてきてやるよ。」

 常陸丸ひたちまるの声に振り向くと、乙羽おとわ成人なるひとと同じぬいぐるみを両手で抱えて食堂に入ってくる所だった。
 乙羽おとわ、お前もか……。
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