【完結】人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

雨の日  成人

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 雨が降っている。
 もう三日も降っていて、俺は頭が痛い。今日は、肘までしか無い左手も、見えない左目も左の脇腹も痛い。
 ずくずくと、でも我慢できる程度の痛みが長く続くのは、疲れてしまう。
 今日は仕事をお休みしよう、と思いながらゆっくり階段を下りて厨房に入った。
 広末ひろすえはいなくて、皮剥き途中のじゃがいもの横で、村次むらつぐが右足を抱えてうずくまっていた。

「痛い?」

 声をかけると、びくっと肩が揺れた。慌てて顔を上げて、じゃがいもを手に取る。

「俺も痛い。」

 って言ったけど、村次むらつぐは眉をぎゅっと寄せてじゃがいもを剥き始めた。

「俺、お休みする。」

 村次むらつぐがやっとこちらを向いた。少し驚いている。
 俺は分かったのだ。
 我慢したら、治るのに時間がかかるから、いっぱい休まなきゃいけなくなる。大嫌いな点滴をされたり、美味しいものが食べれない。
 だから、痛い時やしんどい時は、ちゃんと休んだ方がいいんだ。そしたら、すぐに治るから。

「俺は、何ともない。」

 村次むらつぐは、じゃがいもを剥きながら言った。
 そっか。
 俺は、ずくずくと痛い頭を振って、部屋に戻る。左半身を抱えるようにして布団に入った。目を閉じると、少し頭の痛いのが薄らいだ気がした。

緋色ひいろ殿下にお知らせしますか?」

 じいやの声がする。
 んーん。
 今、緋色は忙しいからいいよ。
 俺は目をつぶったまま首を横に振った。

「あまりにも辛かったら、生松いくまつ先生を呼びますから。」
村次むらつぐは……?」
「もう少し様子を見ましょう。倒れたら、ベッドにくくりつけます。」
「うん。」

 村次むらつぐはじいやの孫で、酷い怪我をして戦えなくなった。
 暇そうだから、忙しい広末ひろすえ殿の手伝いにちょうど良いと思いましてね、と言ってじいやが厨房に置いた。
 厨房は、本当に忙しいので、せっせと働いている。
 初めて会って挨拶をした時、俺の年は十六歳って言ったら、嘘だろ、年上かよって言ったんだ。その時、村次むらつぐは十五歳だった。
 一年一緒にいたけど、村次むらつぐはあまり喋らない。いつも厨房にいて、他の人とも会わないようにしてるみたい。
 雨の日に何回か倒れた。
 右足が痛いのを、我慢して我慢して、限界になったんだろう。
 村次むらつぐはきっとまだ、足だけじゃない色んなとこが苦しくて、痛いって言えないんだなあ、なんて目をつぶったまま考えていた。
 
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