【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

81 成人 77

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「誕生日おめでとう。」 

 目を覚ましたら、目の前に緋色ひいろの機嫌の良い顔があった。布団の中で抱きしめてくれながら、俺が起きるのを待っていたらしい。

「あ、りがと?」

 寝惚けた返事をしたけれど、緋色ひいろは機嫌の良いままで、口にちゅっとしてくれた。

「十六歳最初のキスだな。」
「十六歳?」
「そ。誕生日がきたら、一つずつ年を取るから、今日から十六歳。」
「へー?」
成人なるひと、いくつ?」
「十六?」
「正解。」

 身支度をして部屋を出ると、じいやがにっこり笑って立っていた。見えてるなんて珍しい。

成人なるひとさま。誕生日おめでとうございます。」
「ありがと。」

 じいやはそれだけ言うと、また見えなくなってしまった。おめでとうを言いに出てきてくれたのか……。
 食堂に行く途中も、出会う人みんなが、誕生日おめでとうございます、と言ってくれる。ありがと、って言いながらわくわくしてきた。よく分からないけど、いい気分。力丸りきまるも、誕生日おめでとうって言いながら食堂に入ってきた。

「パーティー、楽しみだなぁ。」
「うん。」

 午前中は、いつも通りお手伝いをした。最近、体調が悪い斑鹿乃むらかのの代わりに、乙羽おとわがお皿洗いを手伝っている。斑鹿乃むらかのの部屋にも、温かいお茶を届けた。

「大丈夫?」
成人なるひとさん。誕生日おめでとうございます。パーティーのお手伝いできなくて、すみません。」
「しんどいの?」
「病気じゃないんですよ。なかなか食べ物を受け付けなくて。」
「食べれないの?大変。」

 俺が体調を崩して一番心配されるのは、食べ物をあまり食べなくなってる時だ。これは、大丈夫じゃないんじゃない?
 ベッドに座って温かいお茶をすすって、美味しいですよ、と笑ってるけど、心配だ。

生松いくまつ、呼んでくる?」
「いえいえ、病気じゃないんです。これは、悪阻つわりだから、しばらくお付き合いするしかないんですよ。」
「つわり?」
「お腹にね、赤ちゃんができたんです。それでね、赤ちゃんが、ここにいるよーって教えてくれてるんですよ。分かったよ、大事にするよって言うと治まるらしいから、大丈夫ですよ。」

 はい?
 赤ちゃん?
 お腹に?
 ちょっとよく分からないから、また青葉あおばさんに聞いておくね……。
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