【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
169 / 1,321
第三章 幸せの行方

70 広末 4

しおりを挟む
 やっと成人なるひとが帰ってきた。おやつの時間に不在だったのが気になって、ずっと帰りを待っていたのだ。
 食べていないなら、また今日の食事量が少なくなってしまうし、食べてきたなら、何を食べたのかチェックしないと、腹を壊してもいけない。夜ご飯が入る程度ですんでいるのかも調べないと。
 荘重むらしげさまがミックスジュースを取りに来たので、それは飲んでいるはず。城の厨房の食べ物を、俺は信用していない。

「なる坊、おかえり。」

 すぐに捕まえて、厨房に引きずり込んだ。夕食の準備は、もう少し後でも間に合うだろう。椅子に座らせて、冷たい水を出す。
 歩いて帰ってきた成人なるひとは、勢いよくそれを飲んだ。

「あれ?そういえば一人か?殿下は?」

 一緒に行った筈なのに、夕方に一人で帰ってくるなんておかしいと思い、聞いてみると、くつくつと笑い出す。

「あのね、朱実あけみ殿下がね、父さまが休憩し過ぎだって怒って、部屋に迎えに来て、俺たちがアイスクリームを四人で食べてたのが見つかって、また怒って。」

 ふふふふふ、と笑っている。言ってることはよく分からないが、元気そうだな。機嫌も良い。

「それで、お仕置きだーとか言って、緋色ひいろも連れて行っちゃった。だからね、」
「ちょっと待て。」
「ん?」
「何を食べたって?」
「アイスクリーム。」
「あいすくりーむ……だって?」
「うん。あのねえ、美味しくて美味しくて、美味しすぎな味だった。」
「…………。」

 待て待て待て。あいすくりーむ、だと?二条の屋敷に居たときに、聞いたことがある、あれか?お城の晩餐会でしか出ない、幻のデザートか?
 製法はもちろん、どんなものかも大して伝わってこないんだよな。お城でしか食べられない、持ち出そうとしても不可能、食べた人も、美味しかったとしか言わないっていう、あの?

「あ、あいすくりーむは、ど、どんな色だった?」

 俺は震える声で尋ねた。

「白くて、ほんのちょっとだけ黄色い。」
「お前も、食べられたってことは、柔らかいのか。プ、プリンみたい、とか?」
「プリンより固いけど、お口に入れると、とろとろになる。すごく冷たいのが、溶ける。」
「と、溶ける?プリンより固いのに?冷たいのは、どんくらい冷たい?」
「氷くらい。」
「……!!」
 
 あいすくりーむは、氷菓子なのか!だから、持ち出し不可能なんだ!こっそり持って帰ろうとしても、溶けてしまうんだ!
 すごい、すごいぞ。そうか。凍らせて、口で溶ける。なるほど!

「あ、味は、甘いのか。好きだったんだよな。」
「すごく好き。一番好き。」

 成人なるひとが、うっとりと言う。成人が好きな味。濃すぎない甘いものだな。冷たいから、濃いく感じないのかもな。
 ああ、作ってみたい。
 頭のなかで、あいすくりーむを想像して、作り方を模索していると、肩をとんとんと叩かれた。
 自分の考えに浸りすぎてたので、びくり、と肩を震わせてしまう。

「ひろさん。そろそろ夕飯を作らないと、間に合いませんよ。」

 斑鹿乃むらかの、あいすくりーむから、呼び戻してくれて助かったよ。
 
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...