【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
159 / 1,321
第三章 幸せの行方

60 緋色 54

しおりを挟む
 誕生日!
 すっかり忘れていた。成人なるひとの年齢を決めてから、色々なことがありすぎて、誕生日を決めることなくだいぶ日にちが過ぎてしまっていた。

「あー、ええと。誕生日?」
「誕生日に団子パーティーするって言った。」

 片方しか開いていない目が、きらきらしている。まあ、こいつの誕生日の手掛かりなんて全く無いのだから、いつでもいいんだが。
 はあー、と息を吐きながら座り込むので、慌てて近くに寄る。
 興奮し過ぎて、ふらついたらしい。
 落ち着け。

「そうだな。誕生日を決めるって言ってたな。今日でもいいが。」

 手近なカレンダーを見せてみる。

「好きな数字があれば、その日にしてもいい。団子はまた、作ってくれるから。」

 胡座の上に抱き上げながら、落ち着かせるように、ぽんぽんと薄い胸を叩いた。
 カレンダーを珍しそうに見ている。これも、知らないものだったかな。じっと見てから、13を指差した。
 ああ。
 そうだな。
 それもまた、お前がお前である証だ。

「よし。じゃ、お前の誕生日は三月十三日だ。まだ、もう少し先だな。今日の団子は、お仕事を頑張ったご褒美にもらっておけ。」
「おれ、おれ…。」
「うん。」
「うれしい。」
「そうか。」

 広末ひろすえが優しく笑いながら、ミックスジュースを差し出した。
 大慌てで、ストローを口にしている。
 飲みすぎたら、団子が入らなくなるぞ。

「おいしい。」

 満面の笑みで、ようやくひと息ついたらしい。
 真剣な顔で、机の上を見つめて、積んであるいつもの団子を一つ摘まんだ。

「食べていい?」
「もちろん。全部食べてもいいぞ。」

 広末ひろすえの言葉を聞いて、口に入れる。傷に当たると痛いのか、少し眉をしかめた。それでも、一生懸命噛んでいる。なかなか進まない咀嚼に広末ひろすえが、はらはらと見守っていた。だいぶ時間をかけて一つ目が終わる。

「食えたな。」
「日が暮れそうだな。」

 広末ひろすえと俺の呟きに、斑鹿乃むらかのが小さく笑った。

緋色ひいろも食べる?」
「ああ。」

 積んである団子を一つ貰って飲み込む。柔らかくて小さいので、あっという間だった。

「これは、食わないのか?」

 色んな味の小鉢に、興味はあるが手は出さないようだ。俺は、甘いものはあまり好まないんだが、食べてみせるか?

力丸りきまるに聞いてみる。」
「ああ?」

 つい低い声が出た。

「いっぱいあるから、一緒に食べる。」

 昨日の力丸りきまるとのことは、覚えていないのだろう。屈託のない様子で言われると、どうしたものかと考えてしまう。

「手の空いてる人を、皆呼んだらどうでしょう?」

 柔らかな斑鹿乃むらかのの声がした。
 力丸だけ呼ぶのは業腹だが、それなら手を打とう。
 渋々頷くと、広末ひろすえ斑鹿乃むらかのが二人で顔を見合わせて、にこりと笑いながら出ていった。
しおりを挟む
感想 2,394

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...