【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

58 成人 65

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 仕事を休んでしまった……。
 目が覚めてからも怠くて、緋色ひいろが部屋にいてくれるのをいいことに、ぺったりくっついていたけど、昼ごはんを食べさせてもらった後に、はたと気付いた。
 ソファに座って仕事をしている緋色ひいろの胸に、うつぶせで抱きついていた。気持ち良かったんだけど、邪魔だったかな。
 もぞ、と起き上がる。

「どうした?」
「邪魔して、ごめんなさい。」
「別に、邪魔じゃない。」

 離れようとするのを、止められる。

「同じ姿勢が辛くなってきたなら、前向きに座り直すか?」
「んーん。」
「別に構わないなら、そうしていたらいい。」
「元気。」
「はいはい。」
「お仕事、したい。」
「昼ごはんを食べきったら、考えてやるよ。」

 口の中も唇も痛くて、あまり食べてない……。
 溜め息をついて、緋色ひいろにうつぶせのままもたれ掛かった。

成人なるひとが溜め息とは、珍しい。」

 ソファの向かい側に座っていたさいが、くつくつ笑っている。

「いっぱい寝たのに。」
「私たちは、すぐ疲れるから困っちゃいますね。」
さいも?」
「そうなんです。」

 でも、さいは、昼ごはんをすっかりきちんと食べれるようになってる。右手と右足が動きにくいらしくて、左手で食べたりするから時間はかかるけど、もう緋色ひいろに仕事を渡されていた。

「免許の件は、とりあえず名字持ちの保証人があれば保証料免除、で手を打とうと思う。」
「賛成です。何事も、性急に進めて良いことはありませんからね。」

 何か大事な話が進んでいる。

「俺は、最終的には国民全員が名字を持ってしまえばいいと思っている。そうしたら、誰でも試験を受けられるだろう?免許を取るには、どんな免許でも相当の努力が必要なんだから、そうやって努力してる奴には平等に機会が与えられるべきだ。名字持ちしか試験を受けられないなんて、もったいない。」
「とても良いお考えだと思います。ただ、国の特権階級の特権を奪うことになるので、一歩ずつやりましょう。私たちはまだ若いのですから、少しずつですよ。」
「お前から、そんな言葉を聞くとはな。」
「え?私は、性急なたちではありませんが。」
「性急だったさ。ついこの間まで、な。」

 ああ、とさいはうつむいた。
 
「……人とは、いい加減な生き物ですね。」
「よい、加減なのさ。付き合ってもらうぞ。まだまだ、やることはたくさんある。」

 さいには、生きてやらなければいけないことが、たくさんある。
 緋色ひいろにも。    
 俺にも……?
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