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第三章 幸せの行方
54 成人 63
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「成人、風呂に一緒に行こう。」
夜ご飯の後で部屋に来た力丸に言われて、びっくりした。
え?なんで?
「朝、言ったよな。俺も今日から、この離宮で暮らすからさ。ここの風呂、大きくて、決まった時間内ならいつでも入っていいんだろ?一緒に行こうぜ。」
固まってる俺に、相変わらずぽんぽん喋る。
「あ、おれ。俺は、緋色と。」
「また、殿下。ずっと殿下と入ってたんだから、たまにはいいだろ。俺が洗ってやるよ。」
洗ってやるよ。
その言葉に、頭の中がぐるぐる回りだした。
洗ってやる。ヤる?
体を洗ったら?
いや、嫌なんだ。
緋色じゃないと嫌なんだ。
「あ、あ、や……。」
視界がぼやける。手が伸びてくるのを必死で避けた。振り払うために触れるのも嫌だ。
何か、何か声が聞こえるけど、俺は伸びてくる手を避けるのだけで精一杯だ。捕まったら、また。でも、抵抗したら余計に酷くなるだろうか。それなら、大人しくして……。
けれど、ぞわぞわとした嫌悪感が、どうしてもその手に捕まることを拒否して、体は必死に逃げた。目が霞んでよく見えないのに、伸びてくる手だけが鮮明で。
「い、いや。いやだ。あああああ!」
俺はついに腰を抜かして座り込んでしまった。力の入らない右手で床をつかみ、ずりずりと尻をずらして後退りする。
ひくっ、ひくっと喉が変な音を立てて、呼吸が上手くできなくなる。
必死で後退りしていると、音が全く聞こえなくなった。俺の耳が壊れたのか、離れることができたのか。
静かに、きょろきょろと目だけを動かす。追いかけてきていないようだ。
逃げ切れたのかも、と思うと力が抜けた。床が、ふか、とした感触に変わっている。ここなら、大丈夫?
「緋色。どこ……?」
一度、視界はまっくらになって、また、見知らぬ手が俺の体をなで回し始めた。やっぱり、逃げ切れなかったか。
もう、動けない。
気持ち悪さに呻きながら、ただうずくまって終わるのを待つだけ……。
夜ご飯の後で部屋に来た力丸に言われて、びっくりした。
え?なんで?
「朝、言ったよな。俺も今日から、この離宮で暮らすからさ。ここの風呂、大きくて、決まった時間内ならいつでも入っていいんだろ?一緒に行こうぜ。」
固まってる俺に、相変わらずぽんぽん喋る。
「あ、おれ。俺は、緋色と。」
「また、殿下。ずっと殿下と入ってたんだから、たまにはいいだろ。俺が洗ってやるよ。」
洗ってやるよ。
その言葉に、頭の中がぐるぐる回りだした。
洗ってやる。ヤる?
体を洗ったら?
いや、嫌なんだ。
緋色じゃないと嫌なんだ。
「あ、あ、や……。」
視界がぼやける。手が伸びてくるのを必死で避けた。振り払うために触れるのも嫌だ。
何か、何か声が聞こえるけど、俺は伸びてくる手を避けるのだけで精一杯だ。捕まったら、また。でも、抵抗したら余計に酷くなるだろうか。それなら、大人しくして……。
けれど、ぞわぞわとした嫌悪感が、どうしてもその手に捕まることを拒否して、体は必死に逃げた。目が霞んでよく見えないのに、伸びてくる手だけが鮮明で。
「い、いや。いやだ。あああああ!」
俺はついに腰を抜かして座り込んでしまった。力の入らない右手で床をつかみ、ずりずりと尻をずらして後退りする。
ひくっ、ひくっと喉が変な音を立てて、呼吸が上手くできなくなる。
必死で後退りしていると、音が全く聞こえなくなった。俺の耳が壊れたのか、離れることができたのか。
静かに、きょろきょろと目だけを動かす。追いかけてきていないようだ。
逃げ切れたのかも、と思うと力が抜けた。床が、ふか、とした感触に変わっている。ここなら、大丈夫?
「緋色。どこ……?」
一度、視界はまっくらになって、また、見知らぬ手が俺の体をなで回し始めた。やっぱり、逃げ切れなかったか。
もう、動けない。
気持ち悪さに呻きながら、ただうずくまって終わるのを待つだけ……。
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